物語文学の流れを概観する中で、その美意識の変遷を踏まえた「文学」の果たす役割についての考察
●物語文学の流れを概観する中で、その美意識の変遷を踏まえた「文学」の果たす役割についての考察
物語文学は、叙事性を基調としながら和歌のような叙情性を合わせ持つ、説話文学の“
はなし“をさらに発展させた文学である。特に物語文学の本質をよく発揮した作品として『源氏物語』が挙げられ、叙事性・叙情性・
観照性が見事に調和された作品で有名である。
『源氏物語』を頂点としたとき、前期では、民間伝承の起承転結をはっきりさせた『竹取物語』や、和歌に美意識を置く『伊勢物語』が代表として挙げられる。これらには、短歌の影響を受けて恋人や家族への愛を歌うものが多く、“物語の祖”とされる『竹取物語』は、“愛こそすべて“という概念を打ち出し、それを前提として『伊勢物語』は、”男女の様々な愛の形“を描き出した。
また、『うつほ物語』は『源氏物語』の五分の三に相当する長編小説でありながら、『
源氏物語』以上の和歌を含み、『伊勢物語』の伝統を踏まえている。物語より古くから存在する和歌は、日本文学の最高峰とされる『
源氏物語』においても、重要な意義をなしている。貴族社会において、和歌は人間関係の交渉を円滑に進める上...