権利濫用と判断されれば、権利の行使が制約される(1条3項)。いかなる場合に権利の行使が濫用になるかについて、初期の判例は、「他人を害する目的で権利を行使する」という主観的要件を重視したが、次第に、「権利の行使によって生ずる権利者の利益と相手方または社会全体に及ぼす損害との比較衡量」という客観的要件によるようになり(宇奈月温泉事件はこの客観的要件によるものであった)、主観的要件は不可欠の要件とは見られなくなった。もっとも、最近では、客観的な事情の比較衡量のみだと、既成事実を作った経済的強者(国家や企業)の利益を擁護する結果となりかねないとして、主観的要件を再評価する学説もある。
宇奈月温泉事件
<事実の概要>
Xは、宇奈月温泉を経営するY電鉄会社の引いた引湯管が、ある地主甲の土地を
2坪程度かすめているのに目をつけ、甲からその土地を廉価で買い受け、Yに不当
な高値でその土地を売りつけてYにこれを拒否されると、引湯管の撤去を求めた。
<判決の要旨と解釈>
所有権が侵害されてもこれによる損失がいうに足りないほど軽微であり、しかもこれを除去することが
著しく困難で莫大な費用を要するような場合に、不当な利益を獲得する目的で、その除去を求めるの
は権利の濫用にほかならない。(大判昭 10・10・5 民集 14-1965)
所有者の側から見れば、自分の土地上に他人が勝手に物を置いているのであるから、それを撤去し
ろと請求する権利がある。この権利行使を許さないとする具体的な条文は、どこにも存在しない。しか
し、その権利行使は、会社の落ち度に目を付けて不当な利益を得る目的でなされているものであり、社
会通念上到底許容できるものではない。
ただし、Xは時価相当額(正当な金額)でYに土地を売りつけることは可能である。
<権利濫用の禁止>
(1)意義
→形式的...