自虐指向と破滅願望

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    資料紹介

    著者は、精神科医である。毎日、どこか精神に異常をきたした人たちを見ていると、なにがふつうで、なにが異常なのかわからなくなるらしい。異常な人格を分類すると、「発揚情性型」「抑鬱型」「自己不確実型」「狂信型」「自己顕示欲型」「気分易変型」「爆発型」「情性欠如型」「意志欠如型」「無力型」などと分類できるそうだ。必ずしも1人が人タイプではなく、複数重なる場合も珍しくない。精神に異常をきたした人と、奇人とは違う。いわゆる、奇人変人ショーなどの奇人や、変わり者、といったたぐいは、別に精神に異常をきたしているわけではないのだ。それが「人格」なのである。もっとも明確な区分けは難しいであろうが、己のアイデンティティを保っている時点でまだ正常である。本当の気違いとは、アイデンティティも存在しない、理解を超える存在らしい。この本には、そうした気違いと扱われるだろう人々が沢山でてくる。中でも興味を引かれるエピソードが2つある。一つは、若い女性二人による誘拐事件。21と20の女性が、なんの計画もなく子供をさらい、身代金を要求する。あまりにも幼稚なこの犯罪計画に、著者は首を傾げる。犯行にいたった動機がよくわからない。そして奇妙なこの二人の関係。この本は、それぞれの患者、それぞれの病気、症状にたいし、それほど深くするどくつっこんで記述はしていないが、わかりやすい事例と、その裏側で、なぜそういう思考に至ったのかを分析している本で、精神科医の視点からの文章である。まったく啓蒙的な点はないと思う。アル中の旦那を抱えて、借金、暴力にさらされても分かれることができないカミさん。離婚すれば劇的に改善されるハズだが、そこまで至る人はほとんどいないらしい。現状を大きく変えることよりも、現状に甘んじることを選択してしまう。言い換えれば、劇的な変更によるはかれない不安よりも、現状維持の不幸を選択してしまう。そこが一見不思議で、でもなぜか納得できてしまうところである。

    資料の原本内容 ( この資料を購入すると、テキストデータがみえます。 )

    副題は、「自虐指向と破滅願望」。運の悪い人がいる。幸福に縁遠い人がいる。それはその人の責任ではないはずだ。だが、なかには、みずから不幸を呼び寄せ、不幸にしがみついている。不幸や悲惨さを自分から選びとっている。そうとしか思えないような人たちがいる。かといって、嬉々として不幸を受け入れているわけではない。人並みに、愛されたい、金持ちになりたい、癒されたい、救われたい、そういった、まことに人間的な欲望を持っている。それなのに、行動や考えが、目的からずれていく。彼らは、この過酷な人生を生きてゆくために、奇妙なロジックを考えだし、不幸を先取りしなければ生きてゆけなくなった人たちなのだ。本書の中では、虎に喰われたかったのに熊に喰われて昇天してしまった主婦、葬式代がないからとアパートの床下に妻の遺体を埋めた夫、電動式自動遙拝器を作ってただひたすら「供養」する男などがその例として挙げられている。タイトルから、精神科医として自虐指向、例えば自傷行為とかをなぜ人は行うのか、辺りの分析を期待していた私としては、理論立てた医科学的な考証はなく「奇妙な行動」をとった人々の実例をどんどん挙げ、とりとめもない思いつ...

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