『万葉集』は現存最古の和歌集で、この作品の成立以降には、勅撰和歌集の『古今和歌集』を始め、日本では数々の和歌集が編纂され続けた。この『万葉集』の特質と意義について述べてみたい。
まず特質の一つは様々な作者である。冒頭は雄略天皇の御製歌で飾られているように、特に初期の巻一・二は史実と重なり天皇家に関わる人々の歌が続く。しかしそれ以降は貴族、下級官人、防人などあらゆる身分の者の歌が収められている。構成は三大部類(雑歌・相聞歌・挽歌)であるが、様々な身分の者が詠んだ歌が収められている為、歌の詠まれた場面や題材は多様であり、この事も『万葉集』の特質と考えられる。
更に、それらの歌は様々な歌体で詠われた。特に長歌は『万葉集』において最盛期で、その後は衰退していった。長歌は宮廷儀礼や祭祀の場における集団歌謡として発生したものである。神や国家を動かすような権力を持つ天皇などが詠う記紀歌謡にも長歌は多く、よって天皇中心とする律令国家を目指していた万葉初期も長歌は多数詠まれていた。語の重複・対句・漸層法などといった表現が、記紀歌謡にも『万葉集』にも見られた。
それまで十数句であった長歌は五七調...