紫式部が生んだ「生霊」の文化
一 憑霊
二 六条御息所
三 夕顔の巻
四 紫式部の一つの解釈
五 まとめ
参考文献
夕顔 藤岡忠美編 おうふう 平成六年
紫式部集全評釈 南波浩著 笠間書院 昭和五八年
もののけと悪霊祓い師 志村有弘編 勉誠出版 平成十七年
古代・王朝人の暮らし 日本風俗史学会編 つくばね舎
平成十年
源氏物語の<物の怪> 藤本勝義著 笠間書院 平成六年
ものと人間の文化史もののけⅠ 山内昶著 法政大学出版局平成十六年
物怪物語と沖縄霊異記 三苫浩輔著 おうふう 平成十一年
一 憑霊
平安時代中期以降、政治的な失脚者が死後、怨霊となって、疫病や天変地異を引き起こすという御霊信仰は衰退していくが、一定の相手への憑霊は、むしろこの時期から活動がすさまじくなる。
憑霊現象を古記録類で見る限り、確実に生霊の憑依と見られる事例は、平安中期までには、全くない。憑霊の正体が判明するものは、すべて死霊である。文学作品である『落窪物語』などに「生霊(いきすだま)」という言葉が一、二出てくる程度で、古記録類には「生霊」という言葉さえ、見当たらない。
生存者の怨念は、生霊としてではなく、「呪...