わが町の主題について

閲覧数3,097
ダウンロード数48
履歴確認

    • ページ数 : 9ページ
    • 会員880円 | 非会員1,056円

    資料紹介

    ソーントン・ワイルダー作『わが町』の主題につ
      いて述べよ
     ソーントン・ワイルダー(Thornton Niven Wilder, 1897 - 1975)はアメリカの劇作家であり小説家で、アメリカ演劇史における代表的劇作家の一人である。彼は、舞台上の虚構を単なる虚構として表現するのではなく、その内側に多くの人が興味を持って共感できる題材を選び、人生の断片を描くことによって、大多数の人間の心に訴えかけることに重点を置いた。彼は20世紀アメリカ演劇において、リアリズムに対する特異なアプローチを見せ、その手法は彼の代表作『わが町』(Our Town, 1938)に見ることができる。
     『わが町』(Our Town, 1938)は三幕物の戯曲で、第一幕「日常生活」、第二幕「恋愛と結婚」、第三幕「死」から成る。ニューハンプシャー州のグローヴァーズ・コーナーという架空の平凡な町での物語で、ギブス医師と地方新聞の編集長ウェブという、隣同士に住む2つの家族の平凡な生活を通して、人生の中の愛や結婚、死などを描いた作品である。
     この戯曲では、「舞台監督」として観客に直接語りかける人物を設定し、装置も簡略化した上で田舎町の一日と人間の生と死を描いていく。「舞台監督」は、「千年後の人々にわれわれの日常生活を知ってもらうため」という理由で、グローヴァーズ・コーナーに新しくできる銀行のコーナーストーンの中に、聖書やシェイクスピア全集と一緒にこの芝居を入れておくと言う。彼は直接観客に「グローヴァーズ・コーナーでは何も特別なことはおこりません。」と語りかけ、劇を進行させたり、時には劇を止め、時間を逆回転させたりしながら物語を展開していく。『わが町』は、何気ない日常生活に場面を設定させている。この劇の中心はどこにでもいる普通の人たちであり、どこにでもある普通の生活である。ワイルダーは、ごく普通の人間の日常生活を描くことを通して、普遍性のある人間の真実を表現し、超越的な語り手である舞台監督の存在や、時間が未来や過去へ動く時間的空間、死者のよみがえりなど、実際には起こりえないことについて見事な手法で描いた。「舞台監督」の存在によってリアリズムにおける作者の主観の「透明性」という虚構をあえて明示し、さらに具体的装置を使わないことで、舞台に再現される現実が、実は現実そのものではなく、その表象、記号であることを証明しようと試みたのである。ただし彼は、『わが町』においては理想的な語りを舞台監督に託しているが、心から心への思想の伝達は単なる説明から神話の次元まで達するので想像的な語りは不可欠としている。
    第一幕は幕も舞台装置もない中で始まり、舞台監督が作品のタイトル、町の様子、さらに中心的登場人物となる医師一家のギブス家と新聞編集人一家ウェブ家の紹介をする。その後、両家の何気ない朝のシーンが始まり、仕事を終えて早朝帰ってくるギブス医師と新聞配達や牛乳配達の少年とのやりとり、朝食の準備をする夫人との何気ない会話、慌しいウェブ家の朝のひとこまなどが、たたみ掛けるように続く。その後、昼も夜になっても何気ない風景描写が続くが、ギブス家のジョージとレベッカの兄妹の対話の中で、牧師がジェーンに出した手紙のあて先が、住所、国名と続いたあと、さらに「北アメリカ大陸、西半球、地球、太陽系、宇宙、神の御心…」と続くシーンがある。これは、この世界、宇宙の広大さと対して人間の小ささを示し、しかしそのすべては神の意思で作られた意味あるものであることを表している。
     第二幕は第一幕から三年後の設定で、エミリー

    資料の原本内容 ( この資料を購入すると、テキストデータがみえます。 )

      ソーントン・ワイルダー作『わが町』の主題につ
      いて述べよ
     ソーントン・ワイルダー(Thornton Niven Wilder, 1897 - 1975)はアメリカの劇作家であり小説家で、アメリカ演劇史における代表的劇作家の一人である。彼は、舞台上の虚構を単なる虚構として表現するのではなく、その内側に多くの人が興味を持って共感できる題材を選び、人生の断片を描くことによって、大多数の人間の心に訴えかけることに重点を置いた。彼は20世紀アメリカ演劇において、リアリズムに対する特異なアプローチを見せ、その手法は彼の代表作『わが町』(Our Town, 1938)に見ることができる。
     『わが町』(Our Town, 1938)は三幕物の戯曲で、第一幕「日常生活」、第二幕「恋愛と結婚」、第三幕「死」から成る。ニューハンプシャー州のグローヴァーズ・コーナーという架空の平凡な町での物語で、ギブス医師と地方新聞の編集長ウェブという、隣同士に住む2つの家族の平凡な生活を通して、人生の中の愛や結婚、死などを描いた作品である。
     この戯曲では、「舞台監督」として観客に直接語りかける人物を設定し、...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。