不景気とデフレ、リストラが蔓延する日本経済の中でも、東京ディズニーリゾート(以下TDR)は入場者数を減らすことなく好調を維持し続け、今では年間2550万人もの人々が来園している。TDRを訪れる理由は「楽しみを買う」「非日常を買う」「思い出を買う」などさまざまな言葉で表現されるように、その高い経験価値にある。テーマパークが顧客に与える経験価値は単に施設が上質であるといったハードの面だけではなく、従業員の顧客に対する心遣いや提供されるサービスなどのソフトの面にも依存する。TDRはハード、ソフトのマーケティングを徹底的に実践しており、リピーターの獲得率97.5%という驚異の数字の所以はここにある。以下で、TDRでのマーケティングの事例を検証するとともに、エクスペリエンス・ビジネスについて考察する。
(1)非日常的な世界の創出
TDRのキーワードの一つとして「夢」があげられる。ゲスト(TDRでは客のことをこう呼び、従業員をキャストと呼ぶ)たちはディズニーの非日常的世界を求めている。そのためTDRには、非日常的世界を演出するためのさまざまな工夫がみられる。
日本のディズニーリゾートは舞浜に決まるまでにその他の候補地がいくつかあり、その一つが富士山のふもとであった。日本初のディズニーリゾートの候補地に、日本の象徴ともいえる富士山のふもとが上がっていたことは何の不思議もない。しかしディズニー社は、パーク内から富士山が見えるとの理由により候補から外した。富士山はディズニー独自の世界観を崩すという判断だった。感動を呼び起こすためにはゲストがディズニーの世界に集中する必要がある。そのため現在のTDRの周囲は囲い込みされており、ゲストがディズニーの世界に浸る環境が作られている。
顧客志向のエクスペリエンス・ビジネス
―東京ディズニーリゾート―
不景気とデフレ、リストラが蔓延する日本経済の中でも、東京ディズニーリゾート(以下TDR)は入場者数を減らすことなく好調を維持し続け、今では年間2550万人もの人々が来園している。TDRを訪れる理由は「楽しみを買う」「非日常を買う」「思い出を買う」などさまざまな言葉で表現されるように、その高い経験価値にある。テーマパークが顧客に与える経験価値は単に施設が上質であるといったハードの面だけではなく、従業員の顧客に対する心遣いや提供されるサービスなどのソフトの面にも依存する。TDRはハード、ソフトのマーケティングを徹底的に実践しており、リピーターの獲得率97.5%という驚異の数字の所以はここにある。以下で、TDRでのマーケティングの事例を検証するとともに、エクスペリエンス・ビジネスについて考察する。
(1)非日常的な世界の創出
TDRのキーワードの一つとして「夢」があげられる。ゲスト(TDRでは客のことをこう呼び、従業員をキャストと呼ぶ)たちはディズニーの非日常的世界を求めている。そのためTDRには、非日常的世界を演出するための...