-香りの伝わり方-
● 香りが脳に届くまで
★ 香りはどの様に心や体に作用するのでしょう? ★
私達は「におい」を常に意識して生活しているわけではありませんが、もし、においの無い世界におかれたら、どうなってしまうのでしょうか?
『アメリカ合衆国で、宇宙旅行をはじめたころ、宇宙飛行士達は嗅覚の欠如に悩まされました。』これはロバート・ティスランド著「ホリスティック・アロマテラピー」の冒頭部です。彼等はおしぼりの香りづけにつかわれていたレモンのにおいを嗅ぐために、使用後もそれを捨てずにとっておくようになったそうです。そして後の飛行士達は自分の慣れ親しんだ香りを持って宇宙に飛び立っていくようになったとあります。
ティスランドは嗅覚と記憶はとても深い関係にあると指摘しています。ある香りを嗅いだ時、ふとシーンが思い浮かぶ...なんて経験は誰にでもあるものです。私事ですが、シンガポールに居た私にとってはドリアンや南の果実のにおいがその地の思い出と共にあります。
香りはたとえそれが一般的に良い香りといわれるものであっても、それと共にある記憶が不快なものだと、本人にとってはとても嫌なものになってしまうというのも面白いところです。 『私の知っているある年配の女性は、バラの香りに耐えられません。少しでもバラの香りを嗅ぐと、この女性は学校の教室の世界にひきもどされてしまいます。そこでは、いつもバラの香りを身につけていた厳しい女教師ににらみつけられ、全身の力がぬけてしまうのです』(「自然香水」クリッシー・ワイルドウッド著より)
では、どのように記憶に影響を与えているのでしょうか? 香りは図の様に脳に届いています。まず、鼻から入った香りはレセプター(受容体)に着き、大脳辺縁系のさまざまな所に働きかけます。 この図では、わかりやすくするために大きく描いていますが、大脳辺縁系はとても小さな組織です。大脳辺縁系は脳の進化から見て一番古い脳で、大脳新皮質が大きくなってしまったために内側に収まっています。そして、この大脳辺縁系こそが快・不快の感覚を表わし、また、嗅覚の経験を記憶しておく器官なのです。「海馬」という組織が大脳辺縁系の中にあります。これは数分から数週間の間の記憶をためておく器官で、やがてその記憶は増幅され、専用の回路を通って長期記憶を止めておく器官へと移されていくというわけです。
大脳新皮質はいわゆる「理性の脳」であり、「大脳辺縁系」は本能の脳と言えるでしょう。大脳辺縁系は人間だけでなく、犬や猫、爬虫類にも存在します。動物は匂いによる記憶で、食せるものや安全な場所などを判断します。そして、危険と判断した場合は避けたり、攻撃したりといった行動を起こすのです。しかし、人間には「理性の脳」がありますから本能だけで行動を起こすわけではありません。この結果、ストレスが生まれます。そして、ストレスを回避するために無意識の内に快中枢を刺激するものを欲するのです。精油を選ぶ時に効果の事は考えず、好きな香りから入った方が良いのではないかと私が思うのはこうしたことからなのです。
私にもこんな経験があります。 私は来星前はオフィスワーカーで、OA機器によるテクノストレスに悩まされていました。そんな時私の一番のお気に入りだったのはラベンダーやネロリ(主に沈静効果)といった精油でしたが、時間の余裕の出来た今、それらの香りには以前ほど興味が湧かず、ローズマリーやレモン(主に集中力を高める)といった精油に魅かれています。自分でも気付かぬうちに、環境(ストレス)にあわせて好みが変化していたのです。これからどんな香りが好きになっていくのでしょうか? アロマとの出会いは心の中への入り口なのかもしれません。
(余談ですが、英国王室にはおかかえアロマテラピストがいるそうです。故ダイアナ元英国皇太子妃のある時期のお気に入りはネロリだったらしいです。)
資料提供先→ http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/3255/eo2.html