重力場の方程式へ
やっとたどり着いたね、おめでとう!
一般相対論の原理
さあ、いよいよ仕上げである。 ここまでの知識を使って、物質の存在と重力の起源を結び付ける方程式を組み立てよう。 その前に一般相対論が拠り所とする原理について少し確認しておきたい事がある。
まず一般相対性理論の基本的な理念は、「一般相対性原理」と呼ばれるものであり、「慣性系に限らず、あらゆる座標系は同等である」というものである。 つまり物理法則はあらゆる座標変換に対して形式が変わらない形で表されるべきだと主張している。
これは式の両辺をテンソルで表してやれば実現できる。
一般相対性理論のもうひとつの柱は「等価原理」と呼ばれるものであるが、これは「座標変換をうまく選べば、ある一点の近くでは無重力だとみなせて、特殊相対論が成り立っている」というものである。 これについてはすでに「局所直線座標系」の記事で説明したように、リーマン幾何学を使うことでこの思想が実現している。
このように一般相対論ではもはや「光速度一定」であることは重要視されていない。 無重力だと見なせる特別な座標系を選んだ時に特殊相対論が実現していればそれでいいのである。
確認は以上である。 つまりあとは式の両辺がテンソルである事さえ徹底すれば原理に忠実でいられるということだ。
組み立て開始
前回話したように、ニュートン力学での重力場の源は「質量密度 ρ」であった。 特殊相対論では質量とエネルギーが等価であることが導かれたので、重力の源は「エネルギー密度」だと言い換えても良いだろう。 しかしエネルギー密度は単独ではテンソルではないから、式の中に持ち込むとしたら、運動量密度などと一緒にした「エネルギー運動量テンソル」を使うべきであろう。 それで、これを重力場の方程式の右辺に持ってくることにする。 これはつまり「重力場の源は質量である」と考えていた古い形式を拡張して、「重力場の源はエネルギー運動量テンソルである」という考えを新しく採用することを意味する。
右辺のエネルギー運動量テンソルが2階の反変テンソルなのだから、左辺も同じ形式のテンソルになるべきだろう。 仮に Xij とでも書いておこう。
ところで「エネルギー運動量テンソル」は次の関係を満たしていた。
これはエネルギー保存、運動量保存の式である。 これは平らな時空を前提に導いた式なのだった。 リーマン幾何学で学んだように、テンソルをただ微分したものはテンソルではない。 ではこの式が時空が曲がっていても使えるようにしてやるにはどうすれば良いかと言うと、すでに良く分かっているだろう。
と拡張してやればよい。 そうなると左辺の Xij を共変微分したものも同じように0にならなければいけないはずだ。
そんな性質を持った量 Xij がそうそう都合よく見付かるはずが・・・いや、あったよ!! 前に出てきたアインシュタイン・テンソルだ。 しかしこれをそのまま使ったのでは次元が合わないので、係数 k を付けて調整してやることにする。
これが相対論における「重力場の方程式」すなわち「アインシュタイン方程式」である。 何とあっけなく導かれてしまったことか。
宇宙項
ここでアインシュタインは少し迷った。この式に次のようなもう一つの項を付け足しても両辺はやはりテンソルであることに変わりない。
しかも、この追加項の共変微分を取ってやれば計量条件でちゃんと0になるのである。 物理的意味はよく分からないのだが、これを加えたとしても最初の仮定は何一つ破
重力場の方程式へ
やっとたどり着いたね、おめでとう!
一般相対論の原理
さあ、いよいよ仕上げである。 ここまでの知識を使って、物質の存在と重力の起源を結び付ける方程式を組み立てよう。 その前に一般相対論が拠り所とする原理について少し確認しておきたい事がある。
まず一般相対性理論の基本的な理念は、「一般相対性原理」と呼ばれるものであり、「慣性系に限らず、あらゆる座標系は同等である」というものである。 つまり物理法則はあらゆる座標変換に対して形式が変わらない形で表されるべきだと主張している。
これは式の両辺をテンソルで表してやれば実現できる。
一般相対性理論のもうひとつの柱は「等価原理」と呼ばれるものであるが、これは「座標変換をうまく選べば、ある一点の近くでは無重力だとみなせて、特殊相対論が成り立っている」というものである。 これについてはすでに「局所直線座標系」の記事で説明したように、リーマン幾何学を使うことでこの思想が実現している。
このように一般相対論ではもはや「光速度一定」であることは重要視されていない。 無重力だと見なせる特別な座標系を選んだ時に特殊相対論が実現していればそれでいいのである。
確認は以上である。 つまりあとは式の両辺がテンソルである事さえ徹底すれば原理に忠実でいられるということだ。
組み立て開始
前回話したように、ニュートン力学での重力場の源は「質量密度 ρ」であった。 特殊相対論では質量とエネルギーが等価であることが導かれたので、重力の源は「エネルギー密度」だと言い換えても良いだろう。 しかしエネルギー密度は単独ではテンソルではないから、式の中に持ち込むとしたら、運動量密度などと一緒にした「エネルギー運動量テンソル」を使うべきであろう。 それで、これを重力場の方程式の右辺に持ってくることにする。 これはつまり「重力場の源は質量である」と考えていた古い形式を拡張して、「重力場の源はエネルギー運動量テンソルである」という考えを新しく採用することを意味する。
右辺のエネルギー運動量テンソルが2階の反変テンソルなのだから、左辺も同じ形式のテンソルになるべきだろう。 仮に Xij とでも書いておこう。
ところで「エネルギー運動量テンソル」は次の関係を満たしていた。
これはエネルギー保存、運動量保存の式である。 これは平らな時空を前提に導いた式なのだった。 リーマン幾何学で学んだように、テンソルをただ微分したものはテンソルではない。 ではこの式が時空が曲がっていても使えるようにしてやるにはどうすれば良いかと言うと、すでに良く分かっているだろう。
と拡張してやればよい。 そうなると左辺の Xij を共変微分したものも同じように0にならなければいけないはずだ。
そんな性質を持った量 Xij がそうそう都合よく見付かるはずが・・・いや、あったよ!! 前に出てきたアインシュタイン・テンソルだ。 しかしこれをそのまま使ったのでは次元が合わないので、係数 k を付けて調整してやることにする。
これが相対論における「重力場の方程式」すなわち「アインシュタイン方程式」である。 何とあっけなく導かれてしまったことか。
宇宙項
ここでアインシュタインは少し迷った。この式に次のようなもう一つの項を付け足しても両辺はやはりテンソルであることに変わりない。
しかも、この追加項の共変微分を取ってやれば計量条件でちゃんと0になるのである。 物理的意味はよく分からないのだが、これを加えたとしても最初の仮定は何一つ破られる事はない。 むしろこの方が数学的には完璧だ。 しかしそんなことをしていいのだろうか。 わけの分からない量は入れない方がいい。 自然はシンプルに出来ているはずだし、法則はシンプルな方がより美しい。
しかしやがて彼は気付いてしまった。 この項を入れなければ、宇宙全体が伸びたり縮んだりする解が導かれてしまうということに。 たとえ宇宙が静止するような解が得られたとしてもその状態は安定に保たれない。 何かちょっとしたきっかけで収縮や膨張が始まってしまうことになる。 ああ、宇宙が不安定だなんてことがあるだろうか。
多分宗教的な影響も背後にあったのだろう。 「神は永遠から永遠にわたって変わらぬお方であられる」ことは主要な宗教の常識であった。 宇宙は神を連想させる。
そして彼は宇宙を安定化させるために先ほどの項の助けが必要だと考えた。 これが「宇宙項」である。 また係数 λ は「宇宙定数」と呼ばれた。 この考えを発表したのは一般相対論発表の2年後 (1917) のことだった。
しかしそれから12年後の1929年、ハッブルが望遠鏡による観測によって宇宙が膨張している証拠を見つけたとき、アインシュタインは言った。
「宇宙項を入れたのは人生最大の過ちだった。」
これは彼が言うほど大した失敗ではないし、科学の発展を阻害するようなものでは決してなかったのだが、彼にとってみれば、「自然は単純である」という自分の信念を無理に捻じ曲げたことへの悔恨の意味を含めた言葉だったのだろう。 この観測結果を自然からの手痛い仕返しであると受け止めたに違いない。 宇宙項の導入をそれほど深く悩んで決めたのだということを察することが出来る話だ。
他人がこのことを指して「彼の最大の過ちだ」と責めるのはまるで知恵の足りない事だ。 これは心の問題だし、彼がこの言葉をどの程度本気で言ったのかさえも分からない。
ところで最新の宇宙論では、宇宙の膨張速度の変化を説明するために、やっぱりこの項が必要だということになっている。 宇宙定数は非常に小さな値ではあるが、この項なしにはうまく行かないのだ。 人の持つ信念というものはそれが特別に強かろうがあまり根拠にはならず、意外と脆いものだということかも知れない。
今後の話では最新の宇宙論のことは無視して宇宙項は省略してしまおう。 ここで扱うには複雑すぎる。 それで、あと気になるのは係数 k の値がどう決められるかだけである。
係数の値を決める
さて、前回の最後に画策した事がきちんと成り立っているかどうかを確かめておかないといけない。 すなわち、アインシュタイン方程式はニュートン的極限においてポアッソンの方程式を正しく再現するかどうかだ。 とりあえず、計量の2階微分を含まなくてはならないという基本的な条件は満たしているようだが、本当にそれでうまく行っているだろうか。
まず右辺の「エネルギー運動量テンソル」だがその中身は
であった。 ニュートン近似では u0 だけが1で、それ以外は0だと考えるのだったから、
以外は全て0だということになる。 いきなり大幅に簡略化できてしまった。 左辺の変形もすんなり行くことを期待したい。
アインシュタインテンソル Gij はリッチテンソルの組み合わせから出来ているからそこから考えたらいいだろうか。
(1)
いや、クリストッフェル記号から考えた方が良さそうだ。
この式に gij = ηij + hij を代入して、hij が2次以上になった項は消してやる。 とは言ってもわざわざ展開して確かめるまでもない。 カッコの中はみんな微分なので、定数である ηij の微分は消えてしまう。 つまりカッコの中はすべて hij の微分であり、どの項もすでに hij の1次である。 これにカッコの外から gkt = ηkt + hkt を掛けようというのだが、 hkt を掛けても2次になって消されてしまうだけなので、 ηkt を掛けた項だけを考えればいい。
この式を (1) 式に代入すると後ろ2つの項は h の2次になってしまうから無視。 残るのは初めの2つの項のみである。
さて、ここからどうしたらいいだろうか。 リッチスカラー R を計算するにはこれに計量を掛けながらあらゆる組み合わせを足し合わせなくてはならないので計算量が膨大になってしまう。 エレガントなテクニックよりも馬鹿正直なやり方を愛する私だが、これでは逆に難しい印象を与えてしまって利点がない。
それで、リッチスカラーを計算しなくて済む方法を経由しよう。 第2部で 重力場の方程式を簡略化する方法 を紹介したが、アインシュタイン方程式、
は、
(2)
という等価な形に変形できるのだった。 右辺の T は T = gij Tij という意味であるが、今の状況では T00 以外は0だと考えるので計算は楽である。 少し後でやろう。
さて、ニュートン近似では h00 = -( 2/c2) という関係になっているのだった。 つまり今興味があるのは h00 の振る舞いだけである。 ということで R00 さえ計算してやればいいことになる。 他の Rij の成分を計算しても h00 は残らないからである。
一方、(2) 式の右辺の 00 成分は
となり、両辺を一緒にすると、
となる。 右辺の第2項は無視した。 この h00 を に直してやると、
となり、これはポアッソンの方程式
と同じ形である。 もし係数 k が、
であれば全く同一のものであるとさえ言える。 アインシュタイン方程式はニュートン的極限で、我々が良く知っている形の重力場を実現するのである。 これですべてが満足のゆく形にまとまった。
しかし理論的に式を導いただけで喜んで受け入れてしまってはだめで、これが現実の自然を正しく表しているかどうかを検証する事が科学ではとても大事な事である。
私は相...