『AUC』の基本公式について
第 100 回薬剤師国家試験 問題 171
薬物 A をヒトに 60mg 経口投与した後の血中濃度時間曲線下面積(AUC)が 600ng・
hr/mL であった。薬物 A を 8 時間毎に経口投与し、定常状態における平均血中濃度を
150ng/mL にしたい。投与量(mg)として、最も適切なのはどれか。1 つ選べ。ただし、
薬物 A の体内動態は、線形 1-コンパートメントモデルに従うものとする。
1 30
2
60
3 90
4 120
5 150
さて、今回は今までにない AUC という大切なキーワードについて学んでいこ
う。日本語訳は、血中濃度時間曲線下面積・・・やたら長いな。
まずはこの AUC という言葉の定義から確認していこう。
『定義』、と言われた
ら、これはもう考えることではなく、
『そう決めました』ということだから丸暗
記するしか無いよ。
といっても、そんなに難しい定義じゃない。今まで学んできた血中濃度のグ
ラフの面積を AUC と決めただけのことなんだ。
1.急速静注・単回投与
3.定速静注(点滴)
2.経口・単回投与
Css
5.経口・反復投与
4.急速静注・反復投与
Css
Css
1
第 100 回薬剤師国家試験 問題 171
いいかな、本当に単純に、AUC の定義は“面積”だよ。単回投与は終りがあ
りそうだけど、点滴と反復投与は時間が経てば立つほど AUC も大きくなるね。
さて、大切なのはここからで、この AUC ってやつが何の役に立つのかってこ
とだよね。AUC が大きいとは?小さいとは?AUC の数字から何がわかるのか?
ではここで、カルブロック(アゼルニジピン)の添付文書を見てみよう。
アゼルニジピンは Ca 拮抗薬
の高血圧治療薬だ。そして Ca
拮抗薬といえば薬学生が常識と
すべき相互作用がある!それが
グレープフルーツジュ ースだ
ね。
グレープフルーツジュースの
せいで小腸の CYP3A4 が阻害
されて、Ca 拮抗薬が分解され
ず、予想外に吸収が激増してし
まうのだったね。
上図は、水とグレープフルーツジュースそれぞれで服用したとき、吸収に違
いが起こるかを調べたデータだ。
もう見るからにヤバいとわかるよね。最高血中濃度なんて 2 倍を超えてしま
っている。水で飲んだ場合と比較して AUC が 3.3 倍!つまりね、体に吸収され
てしまったアゼルニジピンの量が、3.3 倍になったんだ!
実際、患者さんにこの相互作用を注意してもなかなか本気にしない人がいる。
そんな時、『薬がいっぱい吸収されちゃうよ!』って説明するよりも、
『一気に 3 錠も飲んでるようなバカ野郎だよ!』
って言ったら、説得力も出るよね!薬物動態学は、薬剤師のあなたの言葉に重
みと信頼を与える武器になるんだよ。
2
第 100 回薬剤師国家試験 問題 171
さて、いま実際に AUC が使われている現場(添付文書)を見てもらったね。
このように、AUC とは薬物がどれくらい体に吸収されたのかを比較するのに役
立つ指標なんだ。
AUC(血中濃度時間曲線下面積)とは
AUC とは血中濃度式のグラフの曲線下面積であり、
薬物が体にどれだけ吸収されたかを表す指標(吸収特質)
である!
この言い方覚えてね!
例:AUC が 100⇒200 になった ⇔ 薬が 2 倍吸収された
ここで、AUC に関する 2 つの公式を覚えてもらおう。
僕達が知っている代表的な薬物の投与法って2つ合ったよね。それは、
“急速
静注投与”と“経口投与”だ。それぞれに AUC の公式があるから、きちんと区
別して覚えておこうね。
“急速静注・単回投与の AUC”
AUCiv=
Div
CLtotal
Div : 静注投与量
“経口・単回投与の AUC”
AUCpo=
F・Dpo
CLtotal
Dpo : 経口投与量
3
第 100 回薬剤師国家試験 問題 171
静脈を意味する英語の intravenous(iv)、経口を意味するラテン語の peros
(po)という記号はここで丸暗記しておくれ。
“経口投与”の AUC は、“急速静注投与”の AUC に F(バイオアベイラビ
リティー)を掛けた公式になっていることに注意してね。
静注投与の場合は投与した薬物は 100%体に吸収されているけど、経口投与
では口から投与した薬が 100%体に吸収されることはほとんど無い。うんちにな
って出て行く分や肝初回通過効果によって、実際に体に吸収される前にお薬は
減少してしまうよね。
だから経口投与した薬物の量に、
“本当に吸収された割合”を掛けてやること
で、本当に吸収された量に補正しているんだ。
例えば 100mg を経口投与したとする。今、本当に吸収される割合=すなわち
F(バイオアベイラビリティー)が 70%だとすると、
本当に体に吸収された量は、F・Dpo=0.7×100mg=70mg となるよ。
一方で、静注では絶対にすべて体に吸収されるため、F が常に 1 なんだね。
つまり、僕は今、静注と経口で 2 つの AUC の公式を教えたけど、実際には 1
つしかないよね。静注では F=1 だというだけの話だ。
そしてもう一つ大切なのは、この AUC の公式が CLtotal とつながっている点
だ。
CLtotal は薬物動態学の中でも最重要といえるパラメータだけど、それが AUC
を利用することで計算できるんだ。
僕達が一番よく知っているトータルクリアランスの公式はコレだね。
トータルクリアランスの公式
CLtotal=kel・Vd
消失速度定数 kel、分布容積 Vd から CLtotal を求める
最も基本的な式だけど、これからは AUC も CLtotal とつ
ながっていることを知っておこうね。
難しく考えないで、CLtotal を求める2本目の刃を手に入れたと思ってね!
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第 100 回薬剤師国家試験 問題 171
さて、これで必要なアイテムは手に入ったよ。いよいよ問題の解説に入ろう。
問題文より、
『8 時間毎に薬物 A を服用した時の、経口・反復投与の平均血漿
中濃度』について聞いているので(*)を用いる。
経口投与の定常状態の平均血中濃度 Css
Css=
F・D
・・・(*)
kel・Vd・τ
150ng/mL
今、問題で知りたいのは、
Css=150ng/mL・・・①
としたときの、
=8hr・・・②
ごとの、
薬物 A の投与量 D である。
τ
8hr
よって、①と②を(*)に代入すると、
150ng/mL=
あとは kel・Vd と F
F・D
C
kel・Vd・8hr
CVV
がわかれば投与量 D が
・・・(**)
求められそうだ。
ここで、問題文より『薬物 A をヒトに 60mg 経口投与した後の血中濃度時間
曲線下面積(AUC)が 600ng・hr/mL であった。』とあるので、
Dpo=60mg
経口・単回投与の AUC
AUCpo=
AUCpo=600ng・hr/mL
⇔
CLtotal=
を代入した。
F・60mg
ng =10-9g =10-6×10-3 g =10-6mg
C
CLtotal=
・・・(α)を用いて、
AUCpo=600ng・hr/mL
CLtotal
600ng・hr/mL
⇔
CLtotal
(α)に、Dpo=60mg
F・60mg
600ng・hr/mL=
F・Dpo
V
F・60mg
600・10-6Cmg・hr/mL
V
・
106
106
分母分子に 106 をかけて、分母をシン
プルにしていこう
5
第 100 回薬剤師国家試験 問題 171
5
⇔
mL
F・60・106
CLtotal=
・
mL
600・hr/mL
mL も上下にかけて単位もわかりやす
くしていこう
⇔
CLtotal= F・105・mL/hr
・・・③
経口・単回投与 AUC から、CLtotal と
F の関係式 が求まった!
ここで(**)を確認して!
150ng/mL=
F・D
kel・Vd・8hr
・・・(**)
CLtotal=kel・Vd を使って、③を代入できるかたちにした!
⇔ 150ng/mL=
F・D
CLtotal・8hr
③を代入した
⇔ 150ng/mL=
D=
F・D
F・105・mL/hr・8hr
150ng×105・mL・8
分母を払って、D=の形に整理した
mL
D= 150・10-6mg×105・8
ng =10-9g =10-6×10-3 g =10-6mg
D= 15・8mg
答えが mg で聞かれているから、
mg に合わせてあげよう
∴ D= 120mg
よって解答は 4 番の 120mg
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第 100 回薬剤師国家試験 問題 171
どうかな? kel・Vd を CLtotal に変換するところが少し難しいかな?
この患者さんは薬物 A=60mg に対して AUC=600ng・hr/mL を示した。
このような吸収特質を持つ患者さんに、8 時間ごとに 120mg ずつ経口投与す
ると、Css=150ng/mL になるよ、という問題だったね。
Css
Css=150ng/mL
120mg 120mg 120mg
120mg
120...