第95回薬剤師国家試験166問 解説

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    資料紹介

    『定速静注の定常状態』について

    資料の原本内容

    第 95 回薬剤師国家試験 問題 166

    経皮吸収型製剤(有効面積 9cm2)を皮膚に適用したところ、定常状態での血中薬物濃度が
    0.3ng/mL となった。皮膚適用時、本剤 1cm2 あたり 24 時間に吸収される薬物量(mg)に
    最も近い値はどれか。ただし、この薬物の全身クリアランスを 10L/min とする。

    1 0.5

    2

    1.5

    3 3.6

    4 4.3

    5

    12

    6 33

    さて、今回は“経皮吸収型製剤”のお話だね。
    僕は今、小児科の門前薬局にいるので毎日のように“ホクナリンテープ”を
    患者さんにお渡ししています。ホクナリンテープは子供から大人まで処方でき
    る、臨床の現場で非常によく目にする経皮吸収型製剤の具体例と言えるよ。

    ちなみに、小さいお子様の処方で、ママさんに服薬指
    導する時は、胸に貼ると自分で取っちゃうので背中が無
    難であること、かぶれを防ぐため、貼る場所は毎日ずら
    していくことをお伝えしてください。

    ほんとにちっちゃい子なんて、剥がした後食べるからね!考えただけでも怖
    いよね・・・ちゃんと胃に入ってくれたらまだいいけど、気道に入ったらと思
    うとゾッとするでしょ。
    成分名はツロブテロール、気管支平滑筋のβ2 受容体を刺激して気管支拡張を
    起こし、呼吸を楽にする咳止めだよ。
    実際に何度か遭遇した出来事なんだけど、交感神経刺激薬という性質上、動
    悸・息切れ、手の震えなどの副作用があります。んで、面白かった(?)のが
    『ホクナリンテープを貼ると子供が全然寝てくれない』というのがありました

    ようするに体が活動的になってしまうんだね。
    この子の場合テープを 2/3 に分割することで解決したんだけど、切断すると断
    面から剥がれやすくなるから注意してね!

    1

    第 95 回薬剤師国家試験 問題 166

    さて、ここで以下の資料を見て欲しい。貼り薬の定義についてまとめてくれ
    ているとてもわかり易い資料だ。

    貼り薬~経皮吸収型製剤
    http://www.pharmarise.com/paper/list/201302.pdf
    簡単にまとめると、貼り薬には 2 種類あるということ。
    1.貼った場所だけに作用する貼り薬
    2.貼った場所から皮膚を通して血液に吸収され、全身に働く薬
    この2が、まさに経皮吸収型製剤の定義だ。どこに貼ろうとも、全身に働く
    ということこそ、経皮吸収型製剤の特徴といえる。
    ところで、資料の2ページ目、
    『なぜ皮膚に貼るだけで効果があるのか?』と
    いう項目をよく読んで欲しい。ここにとても重要な事が書いてあるんだ。

    え?何が重要なのかって?
    あの赤枠で囲ったところをよく読んでごらん
    『一定速度で吸収』ってさ、これってもはや
    『点滴』とまったく同じだよね!

    ちょっと前フリが長くなってしまったけど、そう、経皮吸収型製剤とはすな
    わち“貼る点滴(定速静注)”なのだ!
    今回の問題では定常状態のことが問われているね。
    『経皮吸収型製剤の定常状
    態』と言われてもよくわからないけれど、経皮吸収型製剤とは本質的には点滴
    (定速静注)なのだから、定常状態だってもちろん定速静注と同じ考え方が使
    えるはずだよね!
    それでは以下に『定速静注の定常状態』をまとめておこう。

    2

    第 95 回薬剤師国家試験 問題 166

    定速静注(点滴)の定常状態

    k0

    kel
    体内

    濃度 C

    C SS 

    Css

    体外

    k0

    kel  Vd

    ・・・(*)

    Css:定常状態の血中濃度
    k0:定速静注速度
    時間 t

    kel:消失速度定数
    Vd:分布容積

    一定の速度で薬物を継続投与し、投与速度と消失速度が等しくなった時以降
    を、
    “定速静注の定常状態”と呼び、その時の血中濃度 Css を(*)の式で表す。

    ちょっと考えてみて欲しい。定速静注をスタートして、それこそ無限大に時
    間が経てば、間違いなく定常状態になっているはずだよね。
    だったら、定速静注の血中濃度式で、時間 t に無限大(∞)を代入すれば Css
    が自分で作れるはずだよね!では実際に∞を代入してみよう!

    C
    C
    C

    k0

    kel  Vd
    k0

    kel  Vd

    (1  e kel t )
    (1  0)

    k0

    kel  Vd

     kel t

    e

    1

     kel t
    e

    1

    ekel t  kel ∞ ←結局分母が∞
    e

    e kel t  0

    ←1/∞はゼロだよね

    ほら、自分で Css が作れるでしょ!
    3

    第 95 回薬剤師国家試験 問題 166

    では必要なアイテムが手に入ったところで解答に移ろう。

    トータルクリアランスの公式

    ちなみに、今回も解答の中でこのトータルクリ

    CLtotal=kel・Vd

    アランスの公式が活躍するよ。必ず、必ず常識に
    しておくんだよ!

    そして『1cm2 あたり 24 時間に吸収される薬物量』というセコい引っ掛けに
    ちょっと注意してね!こういうのやめてほしいよホント。

    【解答】
    経皮吸収型製剤≒定速静注なので、以下、定速静注の定常状態の式を使って
    考える。
    k0

    C SS 

    kel  Vd

    ・・・(*)

    濃度 C

    問題文より
    Css

    …0.3ng/mL

    Css=0.3ng/mL・・・①
    CLtotal=10L/mL・・・②
    がわかっている。

    時間 t

    ここで、トータルクリアランスの公式より、(*)は(**)に書き直せる。

    C SS 
    C SS 

    k0

    kel  Vd
    k0

    ・・・(*)
    Css=0.3ng/mL・・・①

    ・・・(**)

    CLtotal

    0.3ng / mL 

    CLtotal=10L/mL・・・②

    を代入した

    k0

    10 L / min

    4

    第 95 回薬剤師国家試験 問題 166

    0.3ng
    mL

    0.3ng
    mL

    0.3ng
    mL

    k0 =

    k0 =

    =

    ×

    がうっとおしいので、まるごと両辺に

    k0

    かけ算して見た目をスッキリさせよう

    10L
    min

    10L
    min

    = k0

    10×103mL
    ×

    min

    = k0

    0.3ng × 10×103
    min
    0.3×104 ng/min

    これは 1 分間の定速静注速度が 0.3×104ng だよってこと
    今欲しいのは 24 時間の定速静注速度だよ!

    24 時間の定速静注速度に直すために、分母分子に 60×24 をかけると、

    k0 =

    0.3×104 ng×24×60
    24×60×min
    1hr
    ng =10-9g =10-6×10-3 g =10-6mg

    1day(24 時間)

    m(ミリ)

    k0 =

    k0 =

    0.3×24×60×104×10-6 mg
    day
    0.3×24×60×10-2 mg
    day

    =

    4.32mg
    day

    これで正解じゃないよ!
    これは 9 cm2 でのテープの吸収量!
    求めたいのは 1cm2 での吸収量だよ

    5

    第 95 回薬剤師国家試験 問題 166

    よって、求めたい 1cm2 での薬物吸収量は、
    4.32mg/day÷9=0.48mg/day (正解は 1)

    最後に 9 で割るとこなんてミス連発だよね、後で見たらなんでもない作業だ
    けど、試験中に見逃した人は多かったかもしれない。
    でもこの問題の本質は“経皮吸収型製剤=定速静注”であって、9 で割ること
    じゃないから、こういうセコいやつは僕は嫌いです。

    さて、このテキストを書いているのはもう 4 月の終わり頃です。第 100 回薬
    剤師国家試験も終わり、まさかの得点調整、そしてまさかの 14 点もの調整とい
    う波乱が起きました。
    不適切問題 3 問、補正対象問題 11 問・・・

    えっ??

    国家試験を受ける未来の薬剤師さんたちにとっては、薬剤師国家試験って人
    生においてとても大きな壁、乗り越えなければならない試練だと思う。だから
    試験は実力を正確に試すものであるべきです。

    不適切問題は(3 問はちょっと多いけど)起こることもあるだろうけど、補正
    対象問題が 11 問ってのはちょっとなあ・・・
    まあ、文句言っててもしょうがないから、僕は僕のできることで未来の薬剤
    師さんのお手伝いをしたいと思っています。がんばろうね。
    //
    作成日 2015 年 04 月 27 日

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