テーマ:『蒸気圧』について、ゼロから始めて国家試験まで到達する(第一部)
第一部 蒸気圧の概念
蒸気圧
第一部
蒸気圧の概念
このレポートは、気体の性質で重要であるにもかかわらず非常にわかりにく
いテーマである『蒸気圧』をゼロから始めて、分圧や蒸気圧降下、沸点上昇な
どの束一性、ラウールの法則、ヘンリーの法則、実在溶液と理想溶液の違い等
まで理解を広げていくために書いたものです。
最終的に、薬剤師国家試験で問われる蒸気圧関連の問題を自力で解答できる
ようにすることが目的です。
けして簡単ではありませんが、できるかぎりわかりやすく解説していくので、
みんなも頑張ってついてきてください。
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第一部 蒸気圧の概念
それではこれから蒸気圧についての話をしよう。
『蒸気が示す圧力』などと、ぼんやりした言い方で言われるから全然わかん
ないという声も多いね。そもそも蒸気自体が目に見えないから、わかりにくい
のも当然だ。
だけど、僕たちはその蒸気の圧力というものを利用して生活しているし、実
際に家でも目にして(耳にして)いる、むしろ身近なパワーだと言えるんだ。
具体的に言うとそれは蒸気機関車だね。蒸発した水の圧力が、あんなにアホ
みたいに重い車体をすごい速度で走らせてしまう、蒸気とはすごい力を持って
いるね。
参考:V ツイン蒸気エンジン PV 大人の科学マガジン
https://www.youtube.com/watch?v=poYCrYBOJrU
さらに身近な例でいえばヤカンだ。初めは低い温度だったヤカンの中の水も、
熱せられて高温になってくると水は水蒸気となり、その蒸気でヤカンの先に着
いた笛を鳴らす。お湯が沸いた合図だね。
なるほど確かに、蒸気の圧力とはかなりのパワーを持っていることがわかる。
ところで、今の 2 つの具体例はともに“加熱”という作業をしているけど、
加熱しなきゃ蒸気は発生しないと思っていないかい?これは大間違いだ。
蒸気圧に関するもっとも多い誤解はこの思い込みだ。これは今すぐ考え方を
修正して欲しい。誤解を恐れずあえて強い表現でポイントを書くよ。
蒸気圧の理解ポイントその 1・・・蒸気とは
蒸気は加熱しなくても、いついかなる時も発生している
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第一部 蒸気圧の概念
コップに水を入れて、2,3 日放置しておくとカラカラに乾いてしまうよね。
僕たちはこれを『水が蒸発した』とよく言うじゃないか。
液体の水から飛び出した気体の水(すなわち蒸気)がコップから大気中へと
飛び出して行き、最終的に誰もいなくなったんだね。これが蒸発という現象だ。
この現象は、加熱しなくても蒸気
が発生している明らかな証拠だ。
そうでなければ、コップの中から
水がいなくなる理由がないからね。
ふむふむ、こうなるとコップにフタをしてみたくなるのが人情というもの
だ。フタをしたコップの中では何が起こるかな?
当然、外に出られなくなった気体の水分子(蒸気)たちは、フタを押し上げ
ようとぶつかりまくるよね。まだ人数も大したこと無いから、パワーもたかが
知れてるけどね。
しかし、液体から気体へ飛び出してきた水分子た
ちも、初めこそ少なかったが時間が経てばワラワラ
と増えてきて、いいかげん飛び回れる人数の限界に
達するのは想像できるだろう。
ビリヤードのステージ上にボールが初めは 9 個だ
ったのに、なぜか 100 個くらいに増えて、互いにぶ
つかりながら壁ともカチカチやってるイメージだ。
こんなビリヤード全然おもしろくないだろうな。
要するに店員オーバーだ。
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第一部 蒸気圧の概念
結構な数の蒸気がフタにぶつかっていることに
も注目して欲しい。1 発 1 発は大した力じゃなく
ても、これだけの数の気体がぶつかれば、そこそ
この力はありそうだね。
だが、さすがにフタをぶっとばせるほどの力は
ない。こうなると狭すぎる空間に耐えられなくな
った気体の水分子は意外な行動に出る!
それは“また液体の水に戻る”こと。図のオレ
ンジの線がそんな奴らだね。自分で飛び出したく
せに、
『狭いのイヤー!』とか言って戻っちゃうん
だ。
ひたすらそんな状況が繰り返されて、最終的にはある 1 つの状態にたどり着
く。考えれば当然のゴールだよ。“状態が一定”になるんだ。
液体の水⇒気体の水(蒸気)
液体の水⇒気体の水(蒸気)
気体の水(蒸気)⇒液体の水
気体の水(蒸気)⇒液体の水
“気体になる”と“液体に戻る”という、この反対方向の動きが同じ数だけ
起こるようになると、見かけ上水分子の出入りは無くなったように見えるよね。
この、
“状態が一定”になることを、僕達は化学の言葉で“平衡状態”と表現
しているんだ。今、気体と液体の状態が一定になったので、これを“気液平衡”
と言うよ。
“平衡(へいこう)”という言葉を聞いただけで嫌になる人もいるだろうけど、
こんなの“なんか一定になったよ”って言ってるだけだからね。難しく考えち
ゃダメだ。
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第一部 蒸気圧の概念
さて、この“気液平衡”のとき、当然フタにぶつかっていく蒸気はほぼ一定
の数になるよね。つまり、フタを押し上げようとする蒸気の力も一定になって
いるわけだ。
この、蒸気がフタを押し上げる力のことを蒸気圧と言い、
“気液平衡”のとき
のフタを押し上げる力を、蒸気圧の最大値ということで飽和蒸気圧と言うんだ。
蒸気圧の理解ポイントその 2・・・蒸気圧と飽和蒸気圧
蒸気がフタを押し上げる力を“蒸気圧”と言い
蒸気圧の最大値のことを“飽和蒸気圧”と言う
(最大値とはすなわち、気液平衡の時の蒸気圧である)
フタを押し上げる力、と書いたけど、これだとフタがないと蒸気圧を示さな
いかのような誤解を与えるね。別に表現はなんだっていい、
『壁を押す力』でも
『壁を叩く力』でもなんでもいいよ。
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第一部 蒸気圧の概念
では、次のテーマは“蒸気圧の強さ”についてだ
蒸気圧の強弱は何で決まるのだろう?
例で示したように、コップに入れた単なる水ではフタを跳ね飛ばすような力
は無いけど、一方でヤカンの笛を鳴らしたり、蒸気機関車を動かすほどのパワ
ーを持つのは“加熱”したからこそ、だね。
つまり、“温度が上がると、蒸気圧の MAX(飽和蒸気圧)も高くなる”のは
イメージしやすいだろう。
左グラフを見ればわかるように、温度が上がれば
蒸気圧も上がっていくことがわかるね。
100℃でちょうど水の蒸気のパワーが 1 気圧になっ
ていることにも注目してくれ。後に説明する“沸騰”
という現象につながっていくよ。
そしてもう 1 つ、蒸気圧の強弱を決めるのは“物質そのもの”だ!
先のコップの実験を、水ではなくアルコールでやるとどうなると思う?カラ
カラに蒸発するまでに水では 2,3 日かかったが、アルコールではあっという
間!!
温度が同じ条件なら、アルコールのほうがはるかに蒸気になりやすい=蒸気
圧が高いんだ
注射をするときにアルコールの脱脂綿で注射する場所を消毒するよね。塗っ
たところはあっという間に乾いちゃう。あれはアルコールの蒸気圧が高いせい
ですぐに蒸発してしまうからだ。
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第一部 蒸気圧の概念
逆に蒸気圧が低い物質だってもちろんある。薬学らしい物質で言えば“クレ
ゾール” などがそうだ。
3 つのどの形かによって少し違うが、クレゾール
の飽和蒸気圧は 20℃で最大でも 0.1kPa だ。
水が 20℃で示す飽和蒸気圧が 2.34kPa であるこ
とを考えると、少なくとも水のほうが 20 倍も蒸気
になりやすいことがわかる。
コップに入れたクレゾールがカラカラに蒸発するのは、2 ヶ月近くかかるかも
しれないね。
このように、飽和蒸気圧は同じ温度でも物質によって初めから差があり、
“何℃のときいくらいくら”と決まっているものなんだ。
蒸気圧の理解ポイント
その 3
蒸気圧は、加熱によって上昇する
飽和蒸気圧は、同じ温度でも物質によって差がある
蒸発しやすいものほど、蒸気圧が高い
飽和蒸気圧は、何℃のとき何 kPa(mmHg など)と決まっている
アルコールのようにすぐに蒸発してしまう物質のことを“揮発性物質”と言
い、クレゾールのようになかなか蒸発しない物質のことを“不揮発性物質”と
言うことも常識にしておこうね。
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第一部 蒸気圧の概念
さて、蒸気圧がどんなものかイメージは出来てきたかな?ここからは少し応
用編に入っていくので頑張ろう。
応用編の初めのテーマは“分圧”だ!
補題 1
ベンゼンとトルエンの混合溶液は理想溶液を作る。80℃における純ベンゼンと
純トルエンの飽和蒸気圧は、それぞれ 1004hPa と 387hPa である。80℃での全
蒸気圧が 800hPa のとき、ベンゼンとトルエンのモル分率をそれぞれ求めよ。
これまで、コップの中には 1 つの種類の液体しか入っていなかったけど、複
数の液体の入ったコップのフタをしたら、蒸気圧はどうなってしまうんだろ
う?今回はそんな話だ。
いきなり結論を言っちゃうと、
『人数の割合で、圧力を分担する』だけの話な
んだけど、それを今からわかりやすく説明していこう。
左図のようにまず、ベンゼンだけが入った入れ物を考えて
みよう。80℃の純ベンゼンの飽和蒸気圧は 1004hPa と書い
てあるね。
さあ、ではこの中にトルエンを注ぎ込んでみよう。
当然ながら、ベンゼンからすれば邪魔だよね。邪魔でしょ
うがない。今まで液の表面はベンゼンで埋めつくされていた
のに、だからスムーズに蒸気(気体)になれたのに!
今...