『国木田独歩作「忘れえぬ人々」を読み、そこに表現されている人間認識及び人生観について述べよ。』
国木田独歩は、最後には自然主義の思想へと至ることになったが、課題である「忘れえぬ人々」執筆の段階では、まだまだ浪漫主義思想が強かったためか、自己の内面、思想を、主人公である大津弁二郎を通して窺うことができる。
大津は、「忘れえぬ人々」とは、親・子・兄弟・教師・友人のような、本来、忘れてはならない人ではなく、一般的にはなんの弊害もなく、忘れても構わないようなとりとめもない人が、どうしても忘れられないと述べている。
普段我々は、通勤、通学、買い物、ちょっとそこまで出歩くようなことから、友人との遊び、習い事、旅行など、外へ出て行動し、数多くの人々とすれ違う。しかし、その一期一会のすれ違いに、感動も心躍ることもなく、我々は日々、見知らぬ人間を気にすることもなく、意識することもなく過ごしている。普通ならば、そこに共通理解が得られるような会話や行動が当人同士で偶然あったとか、アクションがないと、相手に対し興味関心は湧かないだろう。
しかし、大津はなんら関わりのない、通り合わせた人々に強く惹かれ、長い年...