気管支喘息の病態から治療までの資料です。実習の事前学習などにどうぞ。
1.概要
2.病型
3.病態と臨床症状
4.診断(喘息発作程度の判定基準など)
5.治療
6.予後
気管支喘息(小児)
1.概要
小児気管支喘息とは、発作性に笛声の喘鳴を伴う呼吸困難、咳嗽などの軌道閉塞を繰り返す疾
患で、その背景として、多くは気道の過敏性を伴う環境アレルゲンによる慢性のアレルギー性疾患
が存在する。
小児の気管支喘息の基本的病態は成人とほぼ同じであるが、気道や肺が発達過程にあるため、
年齢に応じた治療管理が求められる。このことから2000年に日本小児アレルギー学会によって
「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン」が作成された。
2.病型
アトピー型
(外因型) ・ダニやホコリなどの環境アレルゲンにIgE抗体をつくる体質の
喘息で、遺伝子が大きく関与する。
・小児気管支喘息の90%以上がアトピー型である。
・喘息児はアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性
皮膚炎などのアレルギー疾患を合併しやすい。 非アトピー型
(内因型、感染型) ・ダニやハウスダストなどの環境性アレルゲンに対するIgE抗体
が作られない体質の喘息で、遺伝傾向は少ない。
3.病態と臨床症状
<病態>
(1)気道炎症
喘息発作のほとんどは、ウイルスの感染とアレルギーの原因になる環境性抗原(ダニ、ホコリ、
動物の毛など)を吸い込んで、気管支粘膜で免疫反応が起こるために、ヒスタミン、ロイトコリエ
ン、化学伝達物質が遊離され、マスト細胞、 好中球、リンパ球によるアレルギー性炎症反応が生
じる。これが長期間続くために気道の慢性炎症となる。
(2)気道過敏性
気管支喘息では、冷たい空気を吸ったり、急に走ったり、大泣きしたときなどに喘息発作が出現
する。
これは、気管に慢性炎症が起こっていると気道粘膜が腫脹して過敏性が増強するためである。
しかし、炎症レベルと気道過敏性の間に相関があるかどうかについて明確な結論は得られてい
ない。
(3)気道リモデリング
気管支の炎症が慢性化すると、気道壁が肥厚し、気管支の内腔が狭くなる。この気道壁の肥
厚・気道内腔の狭小化を気道リモデリングという。
気道が硬くなって弾力性が失われると肺機能が低下し、薬物に対する反応も低下して治療が
難しくなる。
<臨床症状>
咳嗽 気管支喘息では気道内分泌物の貯留が見られる。
気管支腔内に分泌された痰を除くための生理的反応として、咳嗽が現れる。 喘鳴 ・喘鳴は、気管支平滑筋の攣縮だけでなく、気道の狭窄時にここを通過する
気流の速度が増大することにより生じる。
・呼気時に多く、努力呼気とともに認められることが多い。
・年少児では、(1)末梢気道の抵抗が比較的高く、胸腔内圧の陽圧化が生じ
やすいこと、(2)気道における分泌物が多いこと などから喘鳴が生じやす
い。 呼吸困難 ・気管支喘息の症状として気道の閉塞がある。
気道の閉塞は、気管支平滑筋の攣縮、管腔内の分泌亢進、気管支粘膜の
浮腫、炎症などによって生じる。
・気管支喘息は呼気性の呼吸困難であり、以下の特徴が見られる。
(1)肋間腔、鎖骨上窩、肋骨上部などの陥没
(2)胸郭前後径の増大、
(3)鼻翼呼吸
(4)呻吟、啼泣、多呼吸
(5)チアノーゼ、四肢冷感
また、呼吸困難緩和のため、患児は起坐呼吸をとることがある。 喘息発作の重積 ・気道閉塞が通常の薬物療法では改善せず、重積発作が持続する状態。
・意識障害、失禁、チアノーゼ、血圧低下、呼吸補助筋の過剰な使用、呼吸困
難の増強、不穏、疲労の増強、筋緊張の低下が見られる。 脱水 ・呼吸困難に伴う気道からの不感蒸泄の増大により生じる。
・脱水によって気道分泌物の粘稠度が高まると、痰喀出が困難となり、発作は
重症化する。
4.診断
(1)発作程度
発作程度の判定は、急性憎悪(発作)時における治療管理を的確に行う上で、また長期管理治
療薬の選択のもとになる重症度(発作型)を判定する上で重要である。
発作程度は、小発作、中発作、大発作、呼吸不全の4段階に分類し、呼吸状態と生活状態の
障害の度合いによって判定する。
呼吸状態や生活状態の判断に加え、パルスオキシメーターによる経皮的酸素飽和度(SpO2)
やピークフローメーターによる最大呼気流量(PEF)は、発作程度の判定指標として参考に
なる。
<喘息発作程度の判定基準 (JPGL2005)>
小発作 中発作 大発作 呼吸不全 呼吸の状態
喘鳴
呼気延長
陥没呼吸
起坐呼吸
チアノーゼ
呼吸数
軽度
なし~軽度
なし
横になれる
なし
軽度増加
明らか
明らか
あり
坐位を好む
なし
増加
著明
著明
明らか
前かがみになる
可能性あり
増加
減少または消失
著明
著明
あり
不定 覚醒時における小児の呼吸数の目安 2ヶ月未満 <60/分
2~12ヶ月 <50/分
1~5歳 <40/分
6~8歳 <30/分 呼吸困難感
安静時
歩行時
なし
急ぐと苦しい
あり
歩行時著明
著明
歩行困難
著明
歩行不能 生活の状態
話し方
食事の仕方
睡眠
一文区切り
ほぼ普通
眠れる
句で区切る
やや困難
ときどき目を覚ます
一語区切り
困難
障害される
不能
不能 意識障害
興奮状況
意識低下
正
なし
やや興奮
なし
興奮
ややあり
錯乱
あり PEF
吸入前
吸入後
>60%
>80%
30~80%
50~80%
<30%
<50%
測定不能
測定不能 SpO2
(大気中)
≧96%
92~95%
≦91%
<91% PaCO2
<41mmHg <41mmHg 41~60mmHg >41mmHg
(2)重症度
重症度の決定は、4段階の発作程度の判定基準を確認した上で、どの程度の発作がどのく
らいの頻度で起こっているかを基準として、発作型分類(間欠型・軽症持続型、中等症持続型、
重症持続型・最重症持続型)を判定し、治療ステップ(ステップ1~4)を決定する。治療方針は
重症度に応じて決定する。
<治療前の臨床症状の基づく発作型分類と治療ステップ(表1)>
間欠型
・年に数回、季節性に咳嗽、軽度喘鳴が出現
・ときに呼吸困難を伴うが、β2刺激薬頓用で短期間で症状が
改善し持続しない
→治療 ステップ1 軽症持続型
・咳嗽、軽度喘鳴が1回/月以上、1回/週未満
・ときに呼吸困難を伴うが持続は短く、日常生活が障害される
ことは少ない。
→治療 ステップ2 中等症持続型
・咳嗽、軽度喘鳴が1回/週以上、毎日は持続しない。
・ときに中・大発作となり日常生活や睡眠が障害されることがある。
→治療 ステップ3 重症持続型
・咳嗽、喘鳴が毎日持続する。
・週に1~2回、中・大発作となり日常生活や睡眠が障害される。
→治療 ステップ4 最重症持続型
・重症持続型に相当する治療を行なっていても症状が持続する
・しばしば夜間の中・大発作で時間外受診し、入退院を繰り返し、日
常生活が制限される <治療ステップ(表2)>
治療ステップ1 治療ステップ2 治療ステップ3 治療ステップ4 長期管理薬 基本治療 吸入ステロイド (低用量) 吸入ステロイド (低~中用量) 吸入ステロイド (中~高用量) 吸入ステロイド (高用量) 上記が使用できない場合以下のいずれかを用いる ・LTRA
・テオフィリン徐放製剤
(症状が稀であれば必要なし) 上記で不十分な場合に以下のいずれか1剤を併用
・LABA(配合剤の使用可) ・LTRA ・テオフィリン徐放製剤 上記に下記のいずれか1剤、あるいは複数を併用
・LABA(配合剤の使用可) ・LTRA ・テオフィリン徐放製剤 上記に下記の複数を併用 ・LABA(配合剤の使用可) ・LTRA ・テオフィリン徐放製剤 上記のすべてでも管理不良の場合は下記のいずれかあるいは両方を追加 ・抗IgE抗体 ・経口ステロイド 追加治療 LTRA以外の 抗アレルギー薬 LTRA以外の 抗アレルギー薬 LTRA以外の 抗アレルギー薬 LTRA以外の 抗アレルギー薬 発作 治療 吸入SABA 吸入SABA 吸入SABA 吸入SABA ※LTRA:ロイコトリエン受容体拮抗薬 LABA:長時間作用性β2刺激薬 SABA:短時間作用性β2刺激薬
治療を開始しても喘息症状がコントロールされていない場合、治療薬の影響を加味して重症度
を再考し、適切な治療ステップに変更する。
<現在の治療ステップを考慮した重症度(発作型)の分類(表3)>
患者の症状・頻度
(見かけ上の重症度) 現在の治療ステップを考慮した重症度(真の重症度) ステップ1 ステップ2 ステップ3 ステップ4 間欠型相当
間欠型 軽症持続型 中等症持続型 重症持続型 軽症持続型相当
軽症持続型 中等症持続型 重症持続型 重症持続型 中等症持続型相当
中等症持続型 重症持続型 重症持続型 重症持続型
(難治・最重要) 重症持続型相当
重症持続型 重症持続型 重症持続型 重症持続型
(難治・最重要)
※表2・3の見方
表2から現在の治療ステップを見る。これが、表3におけるステップ1~4に相当する。
例えば、症状・頻度から「間欠型相当」の患者が、治療では「治療ステップ2」に当たる場合、
真の重症度は「軽症持続型」となる。
(3)問診
詳細に問診を行うことにより、気管支喘息の病態診断、原因抗体の推定、タイプ、重症度、他疾
患との鑑別、治療に対する効果を知ることがで...