「道徳教育の要である道徳の時間を、児童の心に響くとともに主題のねらいを達成する学習指導の構想を述べよ。」
現代の小学校教育において、道徳の授業は児童の心身の発達及び人格形成の過程の中で、非常に重要な授業とされている。ここでは、その道徳の時間について以下のように述べる。
小学校学習指導要領における道徳教育及びその目標は、次のようにまとめられている。
学校における道徳教育とは、学校の活動全体を通して行うものであり、道徳の時間をはじめとして各教科、特別活動及び総合的な学習の時間のそれぞれの特質に応じ、適切な指導を行わなければならない。
また道徳教育の目標は、学校教育および教育活動全般の中で、道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。道徳の時間においては、この目標に基づき、各教科、特別活動及び総合的な学習の時間における道徳教育と密接な関連を図りながら、計画的、発展的な指導によってこれを補充、深化、統合し、道徳的価値の自覚を深め、道徳的実践力を育成するものである。したがって、道徳の時間とは、児童一人ひとりが道徳的価値を持つ関わりにおいて自己を見つめ主体的に道徳性を自覚するとともに、道徳的に望ましい考え方及び感じ方の基盤形成を補うためのものである、と言い換えることができる。このように、児童一人ひとりに道徳的実践力を身につけさせるためには、次の4項目を学校全体の道徳教育の柱とし、道徳の時間を実施する必要がある。
1. 「計画的・発展的な指導」各教科や特別活動、総合学習においてそれぞれ道徳的指導は実施されているが、どれも主体は別であるため道徳に重きを成して授業を展開することとはなりにくい。そこで、道徳の授業では学校教育活動全般で行われる道徳教育との関連を明確にし、授業内で計画的に各学年に見合う道徳的指導を行うべきであるとしている。
2. 「道徳授業の補充、深化、統合」道徳の時間とは、各教科で実施される道徳的指導を補い、深め、まとめる授業である。このことを児童の立場に当てはめると、各教科や教育活動、総合的学習の授業などで学習した道徳的価値を、人間のあり方などの全体からの視点から見直し自己のものとして更に発展させることを指すものである。
3. 「道徳的価値の自覚」道徳的価値の自覚においては、発達段階に応じてさまざまな視点からとらえられることがあるが、どの捉え方においても次の「道徳的価値についての理解」「自分とのかかわりで道徳的価値を捉える」「道徳的価値を自分なりに発展させることへの思いやりや課題が培われる」といった3項目を理解する必要がある。
また、道徳の時間においては、児童の実態に応じこれらのことが主体的になされるよう指導方法の工夫をする事が大切となる。
4. 「道徳実践力の育成」道徳実践力とは、人間としてよりよく生きるための力であり、児童が道徳的価値を内面から自覚し、将来起こりうるさまざまな状況においても道徳的価値を実現するための的確な行為を主体的に選択し、実践できるようにするための内面的資質を意味する。これは主として、道徳的心情、道徳的判断力、道徳的意欲及び態度の4点を包括するものである。この4点は、それぞれ以下のように解説することができる。
道徳的心情とは、道徳的価値の大切さを感じ取り、善を行うことを喜ぶとともに悪を憎む感情を意味し、人間として生きるうえでより善的なあり方を志向する感情であるともいえる。これは、道徳的行為への動機として作用するものである。
道徳的判断力とは、それぞれの場面及び状況において善悪を判断する能力である。人間が生きていくうえで道徳的価値がいかに重要かを理解し、人間としての対処方法を自己の選択によって判断していくことがこの能力の特徴である。的確な道徳的判断力を持つことで、それぞれの状況及び場面に適した判断を下し、道徳的行為を行えるようになる。
道徳的実践意欲と態度は、道徳的心情や道徳的判断力によって価値があるとされた行動を取ろうとする傾向性のことを意味する。このなかで、道徳的実践意欲は道徳的心情や道徳的判断力を基準として道徳的価値を実現しようとする意志のことであり、道徳的態度はこれらに裏付けられた具体的な道徳的行為への身構えであるとされている。
また、これらの4点のほかにも道徳的習慣などがある。これは、長い間繰り返されているうちに自然と習慣として身についている日常行動のことであり、その基本となるものが生活習慣であるとされる。これらの要点を踏まえ学習構想を柱立てすることが重要である。
道徳の授業において、学習指導の構想を柱立てすることは児童の道徳性の発達に重要な特性を持つため、前記の内容をよく理解する必要性がある。これを踏まえ、次のように順を追って学習指導の構想を述べてみる。
1. 児童が、道徳的実践能力を身につけるための基盤形成に必要な道徳的自覚を促し、「児童が道徳とは何か」という点を把握しやすいよう、的確な資料を提示し指導する。
2. 児童一人ひとりが自己選択において自身の道徳性を追求し、自らの判断で考えた道徳の内容を理解しやすいよう、的確な支援をする。このとき、児童が道徳の内容をより理解できるような場所と資料を提示する。
3. 児童がそれぞれ自分で考えまとめた内容を基盤とし、他の児童との相互交流を通じて児童一人ひとりの持つ、ここの道徳的内容を再検討及びさらなる追求できるよう、その授業における目標を的確に定め、目標達成への支援を行う。
4. 児童が見出した道徳的価値の分析及び解釈をそれぞれ実施させ、児童自身がどの内容に重点を置いているのかを提示させる。
5. 児童が個々の考えをそれぞれ発表しそれをじっと聞くのではなく、「小学校学習指導要領」と児童が自ら学び取った道徳的内容とを照らし合わせ、より道徳性を深めるための補充をする。このとき、児童が「小学校学習指導要領」の内容を理解しやすいよう、あらかじめ抜き出した内容や解説を絵や簡潔な文章にまとめ、より関心を高めることが可能となるような指導を行う必要がある。また、上記の学習過程を実施する際、あくまでも児童の問題解決能力及び主体性を尊重することを重要とし、道徳を指導する側が児童の学習意欲や積極的態度を損なうことのないよう、支援する立場、補助する立場であることをよく自覚し、児童に個人または他者とのかかわりの中で自己の道徳性を高める必要があることを認識させなければならない。そのためには、児童が道徳の授業に関心及び意欲を持てるよう、5感に訴えることのできる工夫をする必要がある。それはDVDやVTRなどの視聴覚資料の活用であり、学習シートをそれぞれの思うような表現方法によって作成させる表現の工夫であり、教師が小学生の頃道徳の授業において、体験した内容や日常における社会問題などの説話の工夫などを用いることが児童の心に響くような指導法となり、それと同時に道徳の授業をより円滑に進行させる教材になるのである。
参考文献 文部省 「小学校学習指導要領解説 道徳編」 1999