罪刑法定主義とは、いかなる行為が犯罪となり、それに対してどのような刑罰が科されるかについて、あらかじめ法律により明確に規定しておかなければならないというものである。これは、「法律なければ犯罪なく、刑罰なし」という標語で表され、人権保障をするという意義を持つ近代刑法の基本原則である。以下歴史的沿革から述べていく。
罪刑法定主義の根本精神は、古くイギリスのマグナ・カルタに遡る。その中で、国民の手になる「法」によって権力、特に刑罰権を制限しようと定めたのが始まりであった。これがアメリカに渡り、1776年の独立宣言や諸州の権利宣言を経て、アメリカ合衆国憲法において成文化された。英米においては、刑事手続きの面で罪刑法定主義が採用されたが、ヨーロッパ大陸では実体刑法上の原則とされ、1789年のフランス人権宣言を経て、1810年のナポレオン刑法典を通じてヨーロッパ諸国に広く導入されるに至った。このような経過をたどって、罪刑法定主義は近代刑法の基本原則となった。日本でも、ナポレオン刑法典にならい、旧刑法で初めて明文をもって罪刑法定主義を宣言し、やがて帝国憲法が制定され、罪刑法定主義が憲法上の原則と...