w0772社会福祉調査

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    資料紹介

    資料の原本内容

    「社会福祉を学ぶ上で、なぜ社会調査の知識や素養が意味を持つのか、それぞれの意義を考えながら述べよ。」
    社会福祉としての社会科学
     社会科学とは、市野川によれば「政治経済学」と「個人主義」に対する批判として19世紀に誕生した。政治経済学とは、個人が自己利益に埋没すれば意図せざる結果としての社会全体の繁栄がもたらされるとする「交換的正義」を重視し、「全体の不可視性」を原理に特徴づけられた。これに対し、社会科学とは、「全体の可視化」を核心に、「分配的正義」や「再分配」を強調してきた。そうした、規範的要素を市野川は、社会科学に「社会的なもの」の深層を見出している。このことから、「社会福祉としての社会科学」は、社会福祉にまつわる社会現象を説明・解釈し、福祉課題ないし社会問題を生み出す社会を批判する事が求められている。
     社会調査の意義と目的
     社会調査とは、国(政府)、地方自治体、営利法人(企業)、非営利法人(学校・医療・福祉等)、個人(研究者・ジャーナリスト・市民等)やその集まり、それらいずれかの組み合わせなどが調査主体となり、調査対象にまつわる諸課題の理解、対応策の立案などを目的に、その時々、または繰り返して行う調査対象の実態把握についての試みを指している。日常生活上で、「見に行く」「様子を聞く」「この間の経過を記録しておく」など、調査とは言わずとも、それに近い事をしている。
    素朴な「見る・聞く・書く」に由来する社会調査が、そのレベルに留まることなく、「調査対象の実態把握の試み」としての独自の意義を持ち得るには二つの要件がある。一つは、「手続きの合理的な可視化」である。一連の調査手続きである、調査テーマ設定、調査対象選定、項目作成、データ収集・分析、調査結果公表など一つひとつの過程で生じる「なぜ?」に対して答えていくことと同じである。もう一つは、「情報の非対称性の低減」で、社会調査に不可欠な二つのポジションである、調査主体と調査対象との間に、各々が有する情報、知識や経験・焦点等の違いといった情報の非対称性が前提とされる。
    社会調査の歴史
    社会調査の起源は、数量調査の系譜として古代エジプト、中国、ペルシャ等における人口・租税・農地調査等が挙げられる。中世においては、1420年のヴェネチアの「商業事情に関する覚書」、1748年のスウェーデンでの国勢調査がある。イギリスでは、ウィリアム王による私有地、財産、産物の一覧表「王国土地台帳」を作成し、広汎かつ詳細な国土誌が誕生していた事を示している。日本においては大化の改新後、戸籍が整理され、人口調査が行われており、戦国時代には中断されるも江戸時代にも人口調査等が行われていた。このことから、「古典的な統計調査」は、支配者の被支配者に対する統治実践として行われたと指摘できる。
    17世紀中葉の西欧諸国において、近代統計学の源泉は、イギリスで生まれた政治算術、ドイツの国状学、フランスの古典確率論から成立し、書く潮流が合流して複合的に結晶した事で学問としての統計学が誕生した。
    政治算術は、16世紀後半以降の人口動態における一定の「規則性/法則性」をグラントが発見し、人口動態から経済統計の領域まで研究対象が拡大された。ドイツの国上学は、17世紀から西欧各国の国情の比較研究がおこなわれ、その後、国家の状態を調査する国勢調査が実施されていった。一方、フランスの古典確立論は、自由意思により無秩序にふるまう人間の行動も社会全体からすれば一定の「規則性/法則性」にあるとし、「平均人」を発見した。
    また、19世紀後半~20世紀初頭のイギリスにおいて、ゴルトンによる優生学、数学者ピアソンによる数理統計学の確立が成された。20世紀には、ゴセットによる理論的後見、フィッシャーによる統計理論の体系化である推計統計学が確立され、今日の統計学の理論体系が構築された。このように社会調査は、個人の集合・集計としての人口という概念の想像のもとで行われるようになった。
    社会調査の歴史の中、社会福祉における社会調査は、19世紀以降の産業革命による急激な社会変動に伴う様々な社会問題(貧困、犯罪、失業、都市衛生問題等)をいかに解決するかという社会政策的な意図のもとで「社会踏査」が実行された。有名な社会調査には、ブースのロンドン調査やラウントリーによる「貧困調査」等があり、当時の社会調査は主に社会問題の発見とその解決への寄与という社会改良主義的な態度のもとで成され、社会調査を通じて福祉国家は構想されてきたとされる。
    社会福祉調査とは
    社会福祉調査は、新しい福祉ニーズの開始や既存の福祉サービスの改善計画、あるいは、見逃されていた問題や新しく生起した問題を掘り起こして福祉課題として取り組むとき、あるいは、市町村が人口流入・流出や少子・高齢化などの動向を予測し、将来の福祉需要に対する施設・サービスの整備計画や政策を策定しようとするとき、的確な現状把握なしには、効果的サービスや対応策を計画及び実施することが困難である。この現状把握を行う方法の一つが社会福祉調査である。
    さらに、社会福祉調査は、どのようなサービスがどれくらい必要であるか、サービスの問題点、効果測定、将来的にどのような福祉ニーズの増大が予測され、どのような中長期的対応策が必要か、住民の社会福祉に対する要望にどうこたえるか等の加地に対して解決策を立てるための根拠となる事実や統計的データといった科学的・客観的資料を提供するものである。
    社会福祉調査は社会調査の一応用分野で、基本的な理論や技術は社会調査に依拠している。社会調査とは、「社会または社会事象について、現地調査により、科学的な資料や統計的推論のための資料を得る事を目的とした調査のことである。資料(データ)収集の方法であることに加えて、それを記述・分析するまでの過程を含む」と定義される。
    社会調査は、資料を収集する事を目的にした「基礎資料的接近型」、解答を得る事を目的とした「問題解決的接近型」、一般理論または一般仮説を得る事を目的とした「理論構成的接近型」の三つに分類され、これらは相互に刺激し合い、貢献し合う関係である。
    社会福祉調査も同様に、この三つの指向性を持ち、特に問題解決的接近に重心を置く特徴がある。社会福祉調査は、ニーズや実態の把握、解釈するだけでなく、その解決策を導き出す事に寄与するもので、直接的、間接的に、サービスや援助、事業運営、制度政策などをより良いものにする事を目的に行われ、その根底には人びとのより良い生活及び福祉の向上を図る事に貢献しようとする価値意識が存在しているところに特徴がある。
    また、社会福祉調査は社会福祉援助技術の間接援助技術の一つとして位置づけられている。
    社会福祉は、近年、近年ニーズ指向が高まり、個別ニーズに対応した必要なサービスを提供する事が求められている。そのため、援助レベルでの個別的ニーズの把握、必要なサービスを整備し、運営する為の計画や政策の策定レベルでのニーズ把握が必要であり、その方法の一つが社会福祉調査である。また、社会福祉調査は、単にニーズ把握だけでなく、前述した、「社会科学としての社会福祉」を科学的、統計的に捉え、様々な福祉課題に応える科学的データを得て、解決するために広く用いられている。
    参考著書
    『新版 社会福祉士養成講座9
    社会福祉援助技術論Ⅱ』第4版
    2008年2月
    福祉士養成講座編集委員会 編集
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