医療福祉論2

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    資料の原本内容

    「国民健康保険制の問題点について、医療を受けることが出来ない人々の個別事例から考察してください。」
    1.はじめに
     1961年の国民年金保険法改正により、国民皆保険制度が始まり、日本国民は生活保護受給者を除き、公的医療保険に加入するように定められた。加入者は医療機関等で受診した際に、医療費の一部分を支払うだけで医療を利用できる仕組みである。しかし近年、全国では国民健康保険料の大幅アップにより、高齢者や低所得層を中心に混乱が生じ、背景には税制改革による所得税・住民税の増大、国保財政立て直しの為の保険料の滞納世帯を厳しく見直し、保険料が払えず保険証を返還させられる人も相次いでいる。
     2.国民健康保険制度の問題点
    (1)被保険者の構成割合の変化
    今までの国民健康保険の加入者の多くは、農林水産業、自営業者、退職者等が大半を占めていたが、現在では年金受給者、失業者、被保険雇用者が半数以上を占め、その中でも高齢者が占める割合が年々増加し、昨今の景気低迷により、加入者の所得額が年々減少している。
    (2)医療費の増大
    日本の医療水準は世界的にも非常に高い。それ故に医療費も高騰し、医療を受けられる人と受けられない人のとの格差が社会問題化し、自己負担の引き上げで医療費を節約しようと受診を抑制し、病気発見の遅れや重症化、本人の健康に大きな影響を及ぼし、結果的に医療費の増加に繋がり、保険料にも影響している。
    (3)国民健康保険料滞納
     2007年現在、全国の滞納世帯数は約474万世帯にものぼり、年々その数も増加している。国は、2000年に国民健康保険法を改正し、2001年度から1年以上の保険料滞納者には保険証を発行せずに、資格証明書の発行を市町村に義務付け、2008年に開始された後期高齢者医療保険制度も同様に、保険料を1年以上の滞納で資格証明書を発行することとした。
    資格証明書で医療機関に受診し、診察時に10割窓口で支払い、市の窓口で7割給付分の還付を受け取るというシステムで、1年半以上の滞納者には還付がない。また、中間措置として、短期保険証(2002年約77万世帯だったのが、2007年には約2倍にまで増加)を導入している自治体もあるが、本来1~2年の更新期間を、半年や3カ月更新にし、行政との接触機会を増やそうとするもので、継続した治療をするには、何度も更新手続きと保険料納付が求められる。経済的問題を解決しない限り保険料は支払えず、その状態が継続すると資格証明書が発行され、無保険状態となり受診困難となる。短期保険証の発行は、救済措置ではなく、資格証明書の予備軍である。これらの、世帯が資格証明書の交付に至らないように、経済的問題を解決していくことが必要とされる。
     資格証明書の発行を受けた世帯の中には、「保険料を払いたくても払えない」と言う生活困窮による保険料滞納者が多数存在し、親の無保険による子ども(中学生以下)の無保険状態も2008年には全国で約3万2900人も存在し、厚生労働省は自治体へ、親世帯の保険料滞納を理由に一律に資格証明書を発行しないよう改善を求めている。
    (3)負担と給付の公平性の問題
     国民健康保険は、皆保険制度として最後の砦であり、医療におけるセーフティーネットの役割を持っている。しかし、保険料負担は保険者である各市町村で異なり、地域間格差が生じている。また、国民健康保険は休業中の傷病手当がなく、疾病を機に仕事が出来なくなった際、大きな医療福祉問題を発生させ、更に、国の市町村国保への国庫支出の比率が、1984年の49.8%から2004年には34.5%に減少し、1988年には各自治体が行ってきた低所得層に対する保険料の法的減額の施策に対して、3/4の負担を1/2に減らし、収納率の低い市町村に対しての国の補助金の大幅削減等、国保財政は脆弱化した。
     3. 事例検証と受療権の侵害
     「p182:事例1-①「国保料の滞納が受診遅れに」②近藤さん③55歳④進行性胃がん⑤A病院」
    高卒で運送会社に就職するも、転職、会社倒産で失業、その後も非正規雇用で生計を立てるも、体調が思わしくなく職場を解雇される。国民健康保険に加入していたが、生活費も事欠く状況で保険料が支払えず無保険となり、自宅で療養するも、結果的に自分で救急車を呼び病院へと搬送される。その際、救急隊員に「無保険でお金もなく、医療費が払えない」と相談があったと申し出があり、入院時よりMSWが関わることとなる。
     MSWが国民健康保険課に問い合わせると、1年半以上の保険料の滞納があり、保険料を支払わなければ保険証交付はできないと回答があり、国民健康保険での受診は自己負担が大きいため、生活保護申請を本人に勧める。本人は、「お金がなくても治療できるなら」と申請を希望した為、福祉事務所に手続きを進めてもらう。身寄りも無く、本人はアパートの家賃や生活費の借金の督促状を気にしている。MSWが「今は治療に専念するように」と説明し、体力回復状況を見ながら退院後の生活を整えていく支援をする。退院後の生活準備も本人の負担が少なくなる様、MSWが同行し、病状も安定し回復、退院へと運ぶ。その後、外来受診を継続していたが体調不良の連絡がMSWに入り自宅へ訪問するも、体力低下が著しく再入院となる。本人は、体調が回復し仕事を再開したいと願うも、病状は回復せず亡くなった。
     受診の遅れは、治療の長期化、後遺症、医療費の増加を招き、日々の生活に様々な影響を及ぼす為、医療ソーシャルワーカーが早急に取り組まなければならない問題であり、病者に対する受療権の侵害にあたり、受療の機会均等を重要な柱とする社会権と位置づけ、受療権の保障は、制度的には国や自治体、受療権を保障する為の医療を含む各種機構・サービスで、単なる制度保障に留まらず、受療者を中心とした医療者、家族を含む市民の連帯が必須条件となっている。
    受療権の概念は、受療者たちの「良い医療を受けたい」と言う、社会に対する平等と公正、正義の実現の要求でもある。今日、日本における受療の権利は、国民皆保険制度により平等を実現したかのように見えたが、実際の生活場面では、保険料滞納等による無保険など、およそ平等とは言い難い事態が進行し、生活保護世帯、障害者医療、高齢者、母子家庭等、医療と福祉の問題が山積みし解決を迫られている。
    受療とは、自ら療養する者として、様々な制約を負いながらも、それぞれに相応しい病者主体、自らの活動条件・手段としての制度・施設や専門職に対する協力・援助を依頼する行為でもある。単なるシステム上の問題とせず、質的にも保障していく課題が適されている。
    おわりに
    MSWは、いち早く患者や家族の抱える生活問題を把握し、受療権が侵害されている実態を掴む立場にあるが、それらを解決しながら、適切な医療が保障されるよう、様々な社会資源を駆使し、制度を知らない患者や家族に向けた情報提供を積極的に行い、同様の問題を抱える人々への援助も、もれなく提供し働きかけることが重要であり、健康や生きる力を取り戻せるよう援助していかなければならない。
    参考資料
    『国民健康保険の問題点を考える
    市町村国民健康保険税の現状と問題点』 
    自治体の果たす役割
    2008年 続 博治
    (元鹿児島県隼人町議/虹と緑会員)
    『国民の療養権と/医療者の診療権』
    http://www10.plala.or.jp/
    shosuzki/medic/rights.htm
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