江戸時代には司法・立法・行政の分化が見られず、裁判権は管轄する各役職に与えられていた。また、裁判規範は裁許留や御仕置例類集などの判例集が主に用いられ、民事・刑事事件ともに一審制であった。
江戸幕府の訴訟手続きには、吟味筋といわれる職権木問主義で刑事事件を取り扱うものと、出入筋といわれる当事者対決主義で、主に民事事件を扱うものの二種類があった。
出入筋では、刑事事件を扱う場合もあったが、重大犯罪については、事件をうやむやにしないように必ず吟味筋で裁判することになっていた。吟味筋に関わる主要な裁判機関は、①将軍②老中③評定所④三奉行⑤道中奉行⑥京都所司代・大阪城代⑦遠国奉行⑧郡代代官⑨火付盗賊改などで、それぞれ事件の管轄や自由に決定できる刑の範囲が定められており、これを超える刑については、上級の機関の指示を待たなければならなかった。また、事案の管轄に関しては、同一領分、同一支配のものに限定される場合は、当該領主・支配者が裁判管轄権をもっていた。事件が二つの管轄にまたがる場合には、町奉行・遠国奉行に裁判権が認められ、郡代・代官にはその権限はなかった。また、有罪か無罪かをめぐって正規の審...