刑法2(各論)
第1課題 いわゆる「胎児性障害」について論ぜよ。
1、胎児性障害とは、母体に侵害を加えてその胎児に有害作用を及ぼし、その結果として障害を有する「人」を出生させること、又は、その障害のために死に至らしめることをいう。現行刑法上、堕胎は故意犯に限って処罰の対象としており、また、過失傷害の客体は「人」に限られている。そこで、胎児性障害はいかなる犯罪が成立するかが問題となる。
2、胎児性障害が問題になった事件として、熊本水俣病事件(最判昭63・2・29)が有名である。これは、ある工場が人体に有害な物質を水俣湾に排出し、これにより汚染された魚介類を妊婦が摂取したため、胎児が胎児性水俣病に罹患し、出生後死亡した事案において、工場長と会社の代表取締役社長が業務上過失致死罪(211条)に問われた事件である。第一審は、胎児には「人」の萌芽が認められ、胎児と人は価値的には差がないこと、致死の結果が発生した時点で客体である「人」が存在すればよく、過失傷害行為の際に「人」が存在している必要はないことを理由に有罪とした(熊本地判昭54・3・22)。第二審は、有機水銀による侵害が、被害者が母体よ...