1[目的]
酢酸エチルの水酸化ナトリウムによる加水分解速度とその活性化エネルギーを求める。
2[原理]1-1),2-1)
活性化エネルギー
アレニウスはスクロースの転化反応の速度をいろいろな温度で測定し、速度定数kが絶対
温度 T の関数で表されることを示した。
k = Aexp −
Ea
RT
式(2.1)
ここで、A を頻度因子、Ea を活性化エネルギーである。指数関数は無次元であるから、A
は反応速度定数と同じ単位をもつ。また、式(2.1)の両辺の自然対数をとると、
ln k = −
Ea
+ 定数
RT
式(2.2)
となる。縦軸に測定された速度定数の対数を、横軸に 1/T をとってプロットしたものをア
レニウスプロットと呼ぶ。式(2.2)によれば、温度変化 dT に対する速度定数の変化が
d ln k
Ea
=
dT
RT 2
式(2.3)
の微分方程式で表される。この式は、速度定数を平衡定数 K に置き換えるとファント・ホ
ッフの式に似ている。
d ln K Δr H
=
dT
RT 2
式(2.4)
ここで、Δr H は反応のエンタルピー変化である。
化学平衡は、正方向の反応速度と逆方向の反応速度とが釣り合うとき成立する。例えば、
次のような化学平衡で、
A+B↔C+D
式 2.5
正逆方向の速度定数をそれぞれk + 、k −とすると、正逆方向の釣り合いの条件はそれぞれの
速度定数が等しいときで、
k + A eq B eq = k − C eq D eq
式 2.6
となる。[ ]eq は平衡濃度である。すると、
C eq D eq k +
=
A eq B eq k −
式 2.7
となる。左辺は平衡定数 K である。つまり、
K=
k+
k−
式 2.8
となり、この式を式(2.3)と式(2.4)に代入すると、
Δr H = Ea+ − Ea−
式 2.9
の関係が成立する。すなわち、反応エンタルピー変化Δr Hは、正反応の活性化エネルギー
と逆反応の活性化エネルギーとの差に等しい。
速度定数 k1 の決定
時間tにおける溶液のコンダクタンス gt は次の式に従うと仮定すると、
gt =
1
1000K
cj lj =
1
[ b − x lOH − + xlCH 3 CO O − + blNa + ]
1000K
式(2.10)
ここで lj はj種の当量イオンコンダクタンスで、cj は j 種の濃度(当量/L)、K はセル定数で
ある。使用する溶液の濃度は充分希薄であるので、たとえ濃度が反応中に変化したとして
も lj が一定であると仮定してもよい。xの値の範囲は x=0 から x=c までであり、cとは a
か b のどちらか小さい方である。よって、どちらの場合でも式(2.10)から次の二式が得られ
る。
g0 − gt =
x(lOH − − lCH 3 CO O − )
1000K
式(2.11)
g0 − gt =
c(lOH − − lCH 3 CO O − )
1000K
式(2.12)
これより、xは次の式により与えられる。
1
1
x g0 − gt R 0 − R t
=
=
1
1
c g0 − gc
R0 − Rc
ここで、
x
a−x
式(2.13)
= k1 atの関係を式(2.13)に代入すると、
g0 − gt
= k1 at
g0 − gc
式(2.14)
となり、この式を変形して
gt =
1 g0 − gt
∗
+ gc
k1 a
t
式(2.15)
が得られ、反応速度定数 k1 は gtに対する(g0-gt)/t をプロットした直線の傾きにより求め
る。また、その切片は反応終了時におけるセルコンダクタンスである。
3[実験]
実験器具
伝導度計、伝導度セル、250ml メスフラスコ、250ml 三角フラスコ、50ml ビュレット、
恒温水槽
試薬
酢酸エチル、水酸化ナトリウム、シュウ酸二水和物、フェノールフタレイン
実験操作
3-1 溶液の調整
1、シュウ酸二水和物の粉末をはかりとり 250ml メスフラスコで 0.01M シュウ酸標準溶液
を調整した。2、水酸化ナトリウムの粉末をはかりとり1L メスフラスコで 0.02M 水酸化
ナトリウム溶液を調整した。3、酢酸エチルをはかりとり 500ml メスフラスコで 0.02M 酢
酸エチル水溶液を調整した。4、指示薬としてフェノールフタレインを用いて 0.01M シュ
ウ酸標準溶液で水酸化ナトリウム水溶液を滴定し、正確な水酸化ナトリウム水溶液のお濃
度を求め、酢酸エチルの濃度を決定した。
3-2 g0 の決定
1、25 度、35 度、40 度、45 度の水温の恒温水槽を用意した。2、三角フラスコに水酸化
ナトリウム水溶液 40ml とイオン交換水 40ml をそれぞれホールピペットでとり、溶液の蒸
発を防ぐため三角フラスコにパラフィルムでふたをした。3、この2つの三角フラスコを
恒温水槽に 10 分間つけて、溶液と水槽の温度を一定にした。4、温度が一定になったら両
者をよく混ぜて、このときの伝導度 g0 を測定した。
3-3 gt の測定
1、水酸化ナトリウム水溶液と酢酸エチル水溶液 40ml をそれぞれホールピペットで三角フ
ラスコに入れ、パラフィルムでふたをしてから実験 3-2-3 と同様に恒温水槽につけた。
2、温度が一定になったら、両者をまぜた瞬間から初めの 10 分間は 30 秒おきに伝導度 gt
を測定し、10 分後からは 3 分おきに 60 分まで伝導度を測定した。3、横軸に時間、縦軸
に伝導度をとり測定結果をプロットした。
3-4 測定結果処理
1、各温度における、(g0-gt)/t に対して gt をプロットして、その直線の傾きから速度定数
k1を決定した。2、得られた各温度 T/K での速度定数 K1 を用いて、横軸に温度 T の逆数
を、縦軸に速度定数の対数 ln k1 をとりプロットした。この直線の傾きから加水分解におけ
る活性化エネルギーを求めた。
4[結果]
実験 3-1 溶液調整の結果
シュウ酸二水和物の秤量値:0.3155g であった。したがって、
シュウ酸標準溶液の濃度 :1.001×10-2 mol/ L
水酸化ナトリウムの秤量値:0.8005g
また、酢酸エチルの秤量値:1.015g
であった。
これより、シュウ酸標準溶液 10mL と水酸化ナトリウム溶液 10mL の滴定結果を表 4.1 に
示す。
表 4.1 シュウ酸標準溶液と水酸化ナトリウム水溶液の滴定結果
1回
2回
3回
NaOH 滴下量(mL)
10.51
10.54
10.49
平均滴下量(mL)
10.51
したがって、
水酸化ナトリウム水溶液の濃度:1.906×10-2 mol/L となった。これは式(2.15)の a であ
る。
実験 3-2 g0 の測定結果
恒温水槽温度 25℃、35℃、40℃、45℃でのコンダクタンス g0 の値はつぎのようになった。
25℃:0.226 S/m
35℃:0.311 S/m
40℃:0.250 S/m
45℃:0.361 S/m
実験 3-3 gt の測定結果
各温度における時間t(秒)に対するコンダクタンス gt の値と(g0-gt)/t の値を表 4.2~4.5 に、
時間tに対する gt のプロットを図 4.1~4.4 に、gt に対する(g0-gt)/t のプロットを図 4.5 に
示す。そして、式(2.15)よりこのグラフは直線になるはずであるので、図 4.5 において最も
直線性の高い範囲での値だけを取り出して(表 4.2~4.5 の色を付けた部分)、プロットし回帰
式を求めたものを図 4.6~4.9 に示す。ここで 40℃での測定ではコンダクタンス go の値は、
前後の 35℃、45℃の値と比べて低くなった。
表 4.2 25 度での gt の測定結果
25 度
g0=
t/秒
gt
S/m
0.226
(g0-gt)/t
30
0.212
4.667.E-04
60
0.211
2.500.E-04
90
0.209
1.889.E-04
120
0.207
1.583.E-04
150
0.205
1.400.E-04
180
0.202
1.333.E-04
210
0.2
1.238.E-04
240
0.198
1.167.E-04
270
0.1964
1.096.E-04
300
0.1942
1.060.E-04
330
0.1925
1.015.E-04
360
0.1909
9.750.E-05
390
0.1893
9.410.E-05
420
0.1878
9.095.E-05
450
0.1863
8.822.E-05
480
0.1848
8.583.E-05
510
0.1834
8.353.E-05
540
0.182
8.148.E-05
570
0.1806
7.965.E-05
600
0.1793
7.783.E-05
780
0.1723
6.885.E-05
960
0.1658
6.271.E-05
1140
0.16
5.789.E-05
1320
0.15...