人工骨頭置換術
(Bipolar Hip Arthroplasty:BHA)
BHAは、大腿骨頚部内側骨折や大腿骨頭が何らかの原因で壊死を起こした場合に、大腿骨頭を切除し、金属あるいはセラミックでできた骨頭で置換する手術です。
全人工股関節置換術(THA)と違い、臼蓋側は置換せず、患者さん自身の軟骨と摺動(擦り合い)させます。患者さんの年齢や骨の形状、質によって、骨セメントを用いる場合と、セメントを使用せずに直接骨に固定する場合があります。
手術時間は多くの場合1~2時間程度です。
例としては、術後2~3日程度で車椅子移動を、4~5日程度で歩行練習を始め、約3週間~1ヵ月で退院できます。
入院中に、日常生活動作、特に、入浴、階段昇降、畳での生活、トイレ動作について訓練します。
BHAもTHA同様に、股関節の悪い患者さんに多くの恩恵をもたらしますが、長い年月が経過すると緩みが生じ、入替え(再置換)の手術が必要となる場合があります。再置換手術を受けることになっても1~1.5ヵ月ほどの入院で、ほぼ元通りに復帰することが可能です。
手術の合併症として、感染、脱臼、血栓症などのリスクもありますので、手術に際しては、専門の医師によく相談されることをおすすめ致します。
退院後は、定期的に受診し、経過観察を受ける必要があります。
術前・入院時の注意
■術前・入院時の準備
飲んでいる薬を見せる
手術に影響を与える場合があるため、処方薬や市販薬など、服用中のお薬を、すべて医師や看護師に見せてください。
歯の治療を受ける
むし歯や歯周病の細菌が血液中に入り、人工関節置換術をした場所で感染症を起こす場合があるため、手術前に治療を受けてください。
自分の血を貯めておく
他人の血液を輸血することによる副作用を避けるために、手術前に患者さんの血液(自己血)を貯めておき、手術中や手術後に輸血する場合があります。
肥らないようにする
人工関節に負担がかからないように、体重管理に心がけてください。
上腕や下肢を鍛える、車いすや杖の練習をする
手術後のリハビリをしやすくするために、手術前から上腕や下肢を鍛えたり、車いすの操作や乗り方、杖の練習をする場合があります。
生活様式を見返す
つまずく危険性のあるものは片付けておく、廊下や階段に手すりを取りつけたり、すべり止めテープを貼っておく、お風呂にマットを敷いたり、手すりをつけたりして、滑りにくくしておく、和式トイレを洋式トイレに変えておくなど、退院後の準備をしておくことが大切です。
術後のリハビリ
外転枕
手術直後に、足の位置を正しく保つために使用する枕です。一般的には台形の枕を足の間にはさみ固定します。
筋肉の訓練
股関節に力を入れて伸ばす訓練、股関節を伸ばしたまま下肢全体をあげる訓練などがあり、病棟内で行う場合と、術後少したってからリハビリ室で行う場合とがあります。
歩行訓練
手術後数日~10日頃から術後の状態を見ながら少しずつ足をついて歩く訓練を開始します。はじめは平行棒や歩行器につかまりながら、だんだんと杖の訓練に移ります。次に階段の昇降訓練です。術後2~4週で杖をつきながら自力歩行が可能になります。
退院後の注意点
■日常生活動作の指導
人工関節(股関節)手術後 気をつけなければいけない姿勢
人工関節に大きな負担がかかり、脱臼する場合があるため、こういった姿勢には気をつけてください。
正座やあぐらは人工関節に大きな負担がかかるため、できるだけ避けてください。人工関節が脱臼する場合があるため、足は組んだりしゃがみこんだりしないでください。
・座禅をするような姿勢
・トンビ座りをしない
・正座をしておじぎをしない
・前屈みで下着や靴下を履かない
・手術した足を軸にしない
・膝を組まない
・深いソファーに座らない
・風呂場では低い椅子に座らない
自転車の運転
自転車の運転はできますが、坂道を登るときは、降りて押す方が、人工関節にかかる負担が少なくてすみます。
家事
よく使うものは立ったままで手の届く範囲に置いたり、床拭きにはモップを使ったり、洗濯ものを干すときには両足を開いて片足だけに体重がかからないようにしたり、買い物では、ショッピングカートを使って重い荷物を持たないなど、人工関節に大きな負担をかけない、脱臼を起こす姿勢をとらない工夫をしてください。常時10kg以上の荷物を持たないようにしましょう。
衣替え
ズボンやパンツは必ず椅子に腰掛けてはいてください。足を入れる順番も、最初に手術した足から入れてください。脱ぐときは、その逆です。靴下も椅子に腰掛けてはいてください。
入浴
マットを敷くなどして、すべらないようにして下さい。浴槽の出入りも、手術をしていない方の足を先にしてください。
トイレ
洋式トイレを使ってください。外出先などで和式トイレしかない場合は、人工関節に負担をかけないよう十分注意してください。
運動
テニス、ジョギング、スキー、野球、サッカー、バスケットボール、バレーボールなどの激しい運動は、人工関節が磨耗したり、破損する原因となりやすいので避けてください。
散歩や水泳などの軽い運動や体重のかかりにくい運動は、体に負担にならない程度であれば大丈夫です。
■定期健診
受診スケジュール
人工関節は、気づかないうちにゆるみなどの問題を起こしていることがあります。人工関節を長持ちさせるためにも、6ヵ月から1年に一度は定期検診を受けましょう。異常を感じたときもすぐに受診してください。
手術後の合併症
脱臼
関節がはずれてしまうことです。脱臼すると通常は痛みで足を動かすことができませんので、すぐに医師を訪れて元に戻して貰わなくてはなりません。術後日数が経つにつれて脱臼しにくくなります。
深部静脈血栓症・肺塞栓症
深部静脈血栓症とは、下肢の静脈に血の塊(血栓)ができて血管をふさいでしまうことです。血流が悪くなり、下肢がむくんだりふくらはぎが痛んだりします。これは、飛行機などの乗り物で長時間足を動かさないでいるときにもおこります。いわゆるエコノミークラス症候群(旅行血栓症)です。
この血栓が何かの拍子にはがれて、血流に乗って肺まで到達し、肺の血管をふさいでしまうのが肺塞栓症です。肺の血管がふさがると、血液ガスの交換(二酸化炭素と酸素の交換)がうまくおこなわれず、呼吸困難や胸の痛みを感じるようになります。時に取り返しのつかない重篤な症状を引き起こす可能性があります。
感染
人工関節の手術では、細菌感染が起こることがあります。感染には早期感染と晩期感染があり、早期感染は主に手術時の感染が原因と考えられています。これに対し、手術後3カ月以上たっておこる晩期感染は、早期感染に比べ頻度は低いですが、体調をひどく崩したとき(エイズ、ガン、肝機能障害、糖尿病の悪化)などに起こることがあります。感染は抗生物質などで治療できますが、深刻なときは人工関節の入れ替えが必要となる場合があります。
ゆるみ・破損・摩耗
人工関節を使用していると、ゆるんだり、破損したり、摩耗する(すり減る)場合があります。ゆるみは、人工関節の固定性が悪くなってずれてしまうことです。
摩耗は、主に人工関節を構成するポリエチレンの部分に見られます。摩耗粉が周辺の骨を溶かす骨融解の原因となる場合があります。
再手術
人工関節がすり減ったりゆるんだりすると、再度、新しい人工関節に入れかえる手術をします。その際、人工関節をすべて取りかえる場合と、交換が必要なものだけを取りかえる場合があります。再手術は一般に初回手術よりも手術時間が長くかかり、入院期間やリハビリも長引きます。