川端康成の『伊豆の踊子』では、主人公「私」が伊豆旅行中に旅芸人一行に出
会い、下田まで彼らと旅を共にしたという作者の実体験をもとに、物語が展開さ
れていく。この作品では、後半に唐突に私の旅の目的が明かされる。「二十歳の
私は自分の性質が孤児根性で歪んでいると厳しい反省を重ね、その息苦しい憂鬱
に耐え切れないで伊豆の旅に出て来ているのだった。 」
孤児根性とは、川端自身の人格を形成する上で大きく占められている要素であ
り、それは他の作品でも影響が認められる。この作中から例を挙げると、「道が
つづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を白
く染めながら、すさまじい早さで...