1.甲による映画上映は、わいせつな図画の公然陳列に該当するため、わいせつ図画公然陳列罪(刑法175条)の構成要件を満たす。もっとも、甲は当該上映は法律上許されていると誤信している。そして、刑法38条1項は、故意犯処罰を原則とする。そこで、故意には、自己の行為を違法であると意識する必要があるか否かが問題となる。この点、以下の通り学説が分かれる。
(1)厳格故意説
犯罪事実の認識と違法性の意識が故意の要件とする説である。故意責任の特質は、自己の行為が法律上許されないことを意識したことにより形成された反対動機を突破して、あえて行為を決意した直接的な反規範的人格態度にあることを根拠とする。
この説については、①常習犯は、違法性の意識の程度が低いのに、重く処罰されることとの整合性が取れない、②激情犯は違法性の意識は存在しないから、故意責任を問えない、という批判が成り立つ。
(2)制限故意説
犯罪事実の認識と違法性の意識の可能性を故意の要件とする説である。この説では、行為者が犯罪事実を認識しながら違法性の意識を欠いた場合、その誤った評価をする人格形成こそが非難に値することを根拠とする。
こ...
立石二六 刑法総論(第3版) 成文堂 138-168頁
西田典之他編 刑法判例百選Ⅰ総論(第6版)有斐閣 2008年 94-97頁
大谷實 刑法講義総論(第3版) 成文堂 2009年 340-362頁
です(文献数減らしたい場合の参考に)。