1 はじめに
チンパンジーは、ヒトに最も近い種類に属する動物で、道具・シンボルを使い、ヒトのようにコミュニケーションをもつことによって社会をつくり、また、生物学上も、98パーセント以上にものぼるDNAを「ヒト」と共有し、学者たちによって「ヒト科」に分類しても良いのではないかという意見さえも出ている。さて、このように人間に極めて似ているチンパンジーを「人」とすることができるか否か、法的な観点から検討してみる。
2 法で定義する「人」とは
現在の法では、憲法を覗いても、民法の条文を探しても、「人」の一義的な規定は存在しない。民法は権利の体系として構成されていている法律であるが、その権利の客体たる地位・資格を「権利能力」として、それの主体たる、自然人・法人を規定している。
民法では、肉体をもつ、生身の人間のことを「自然人」として、生まれることにより「権利能力」が始まり」(民法1条3項)、死ぬことによってその権利能力を失うということを規定している。すべての自然人は、「自己目的の自然的実在」として近代の法の中で平等で完全な権利能力を享受しているのであるが、この権利能力がなければ、「人」として生活してゆくうえで必要な、
チンパンジーを法的に「人」とできるか検討する。
はじめに
チンパンジーは、ヒトに最も近い種類に属する動物で、道具・シンボルを使い、ヒトのようにコミュニケーションをもつことによって社会をつくり、また、生物学上も、98パーセント以上にものぼるDNAを「ヒト」と共有し、学者たちによって「ヒト科」に分類しても良いのではないかという意見さえも出ている。さて、このように人間に極めて似ているチンパンジーを「人」とすることができるか否か、法的な観点から検討してみる。
2 法で定義する「人」とは
現在の法では、憲法を覗いても、民法の条文を探しても、「人」の一義的な規定は存在しない。民法は権利の体系として構成され...