(1)動機と意思を区別すべきか
動機と意思は区別するべきでないと考える。
なぜなら、動機と意思は、理論的には峻別できるものであるかもしれないが、現実的に考えるとその区別は必ずしも明瞭ではない。また、通常取引をする際に何が動機で何が内心効果意思であるかどうかを認識している人はほとんどいないであろう。
よって、意思と動機は、理論上区別することは考えられるが、実際の事例を扱う際に区別して考えることは妥当でない。
(2)「動機の錯誤」による意思表示の無効を認めるべきか
認めるべきであると考える。上で述べたように動機と意思を区別するべきではないという立場に立つところからは当然の帰結である。
加えて、動機の錯誤といっても他の錯誤と区別は必ずしも明瞭ではなく、その問題点である取引の安全を害する点においても共通するところから、動機の錯誤を認めることは許容されるし、実際の事例を見てみると、問題になっているのはほとんどが動機の錯誤であし、これを認める必要性がある。
よって、錯誤が動機にあったとしても、これによる意思表示の無効は認めるべきである。
(3)表意者保護と取引の安全をいかに調和させるか
この点については、それが動機の錯誤であるか意思の錯誤であるかで意思表示が無効となるか否かを判断するのではなく、錯誤主張の要件判断の際にその錯誤が当該法律効果を無効であるとすべきか否かを判断することにより、これらを調和させるべきと考える。
錯誤があるところが意思であろうと動機であろうと、取引の相手方がそのことを認識しているか認識できる場合はかなり少なく、考えにくいであろう。
動機の錯誤 groundnut
基本判例6 動機の錯誤
――相手方に表示されなかった動機の錯誤は、法律行為の要素の錯誤にならない――
[最高裁昭和29年11月26日第二小法廷判決 民集8巻11号2087頁]
Ⅰ事件の概要
B仲介人
手付金交付 手付金受渡
売買契約(無効?)
買主A Y売主
債権譲渡
手付金返還請求
債権譲受人X C居住者
①訴外Aは昭和29年Yから訴外Bの仲介により本件建物を6万円で買受けた。
Aが本件建物を買受けた動機
当時Aの居住する家屋の所有者が変わり、新所有者から明渡を求められていて、他に家屋を買受ける必要に迫られていたところ、Bから本件建物が売却されることを聞き、当時本件建物には訴外Cが住んでいたので、同人と交渉し、同人から同居の承諾を得た結果、売買契約を結ぶこ...