環境・分析系実習レポート
Ⅱ- 2 衛生試験法
提出日
2010/10/19
Ⅱ- 2.1 溶存酸素(DO)の測定
実施日 2010/10/04
目的
溶存酸素量(DO)および,DOから算出される生物学的酸素要求量(BOD)は,非常に重要な水質汚濁の指標である.本実習でDO測定法の技術取得を目指す.
実験概要
用意された河川水試料について,ウィンクラー法を用いてDOを測定する.
原理
結果・考察の項目にまとめて示す.
手順
使用する試薬および実験手順はテキストに準ずる.
結果・考察
試料に過マンガン酸カリウム溶液を加えKI溶液でアルカリ性にすると水酸化マンガンの白色沈殿を生じた.白濁した溶液はすぐに褐色に濁った.これは沈殿と試料中のDOが反応して亜マンガン酸の沈殿となったためである.次に硫酸を加えると沈殿が溶解し,溶液は黄褐色になった.このときDOと当量のヨウ素が遊離する.遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定したところ,0.005mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液を4.90mL要した.以下に示す過程によりDOを求めると,8.03mg/Lであった.
反応式から,反応に要したチオ硫酸ナトリウムの物質量の1/2が溶存酸素の物質量であることがわかった.したがって①式によりDOを求めることができる.
ただし①式の はそれぞれ,チオ硫酸ナトリウム溶液の濃度:0.005mol/L,滴定に要したチオ硫酸ナトリウム溶液の容積:4.9mL,チオ硫酸ナトリウム溶液のファクター:1.004,測定瓶の容積:100mL,測定に用いた試料の容積:25mLである.2を減じたのは酸素固定前に加えた2mLの試薬を考慮したためである.
環境基準法に基づいて定められる「生活環境の保全に関する環境基準」によると,水資源の利用目的の適応性とDOの基準値との関係は【表1】に示した通りである.河川,湖沼,海域などそれぞれの公共領域においてDOの基準値が定められており,pH,BOD,SS,大腸菌群数の基準値とともに,水資源の利用目的の適応性評価に用いられる.河川についてはこれらの基準値を組み合わせて6類型に分類されている.実習で試験した試料中のDOは8.03mg/Lであり,清浄な地表水であると評価できる.魚類の生息に必要とされているDOの5mg/Lを超えており,魚類の生息に十分な溶存酸素量であると言える.ただし表1から,利用目的の適応性について評価するためにはDO以外の項目についての試験結果が必要であるため,今回の結果からは具体的に評価することができない.
【表1】河川における水域類型別の生活環境の保全に関する環境基準
類型
利用目的の適応性
基準値
pH
BOD
SS
DO
大腸菌群数
AA
水道1級,自然環境の
保全及びA以下
6.5以上
8.5以下
1mg/L
以下
25mg/L
以下
7.5mg/L
以上
50MPN/100mL以下
A
水道2級,水産1級,
水浴及びB以下
6.5以上
8.5以下
2mg/L
以下
25mg/L
以下
7.5mg/L
以上
1000MPN/100mL以下
B
水道3級,水産2級,
及びC以下
6.5以上
8.5以下
3mg/L
以下
25mg/L
以下
5.0mg/L
以上
5000MPN/100mL以下
C
水産3級,工業用水1
級及びD以下
6.5以上
8.5以下
5mg/L
以下
50mg/L
以下
5.0mg/L
以上
D
工業用水2級,農業用
水,及びE
6.5以上
8.5以下
8mg/L
以下
100mg/L
以下
2.0mg/L
以上
E
工業用水3級,環境保全
6.5以上
8.5以下
10mg/L
以下
ごみなど
がない
2.0mg/L
以上
また今回の実験では,試料採取から酸素固定までの経過時間が不明であり,空気中の酸素が試料に触れて実際より結果が大きい値になった可能性がある.さらに,ウィンクラー法は酸化還元反応を用いるため,鉄,硫化物,亜硝酸,亜硫酸,遊離塩素など各種の酸化還元物質の存在により,結果に誤差が出た可能性がある.
次に,生物学的酸素要求量(BOD)測定の注意点を調べた.BODは水中の有機物が溶存酸素の存在下に好気性微生物によって分解される際に消費される酸素の量(mg/L)であり,ODの測定値を利用して求める.このため,微生物によって分解されない難分解性有機物の量は反映されないことを理解しておく必要がある.また,無機物でも微生物によって分解されるものがあり,これらが測定結果に影響する可能性があることも考慮すべきである.次に,BOD試験は試料採取後出来るだけ早く開始しなければならない.野外調査などで実験室へ運搬する場合,氷詰めにするなどして出来るだけ低温に保ち,実験室でも暗所に保管する.試料の状態が試験に適さない場合には,必要に応じて前処理をする必要性がある.前処理としては,アルカリや酸を含有する試料のpH調整,好気性微生物が不十分な飼料への植種,溶存酸素が過飽和の溶液のばっ気・温度調整(気泡の発生を防ぐ),重金属を多く含む飼料への植種,残留塩素の除去,硝化性細菌の抑制など多くの項目がある.その他には,試験中に溶存酸素が瓶外へ逃げ出したり外気が侵入したりしないようにガラス線のすり合わせを完全にすることが挙げられる.注意深く測定を行っても溶存酸素の測定値にはバラつきが生じることが多いため,複数の試料で試験を行って精度を高める工夫をするとともに,測定値の利用にあたっては信頼しうる値かどうかの判断を注意深くする必要がある.
参考
日本分析化学会北海道支部編,水の分析第4版,化学同人,1994,493p
日本薬学会編,スタンダード薬学シリーズ5.健康と環境,東京化学同人,2006,459p
Ⅱ- 2.1 化学的酸素要求量(COD)の測定
実施日 2010/10/04
目的
有害・有毒物質を含みBOD測定が不可能な工場排水の水質汚濁の状態も測定できる化学的酸素要求量(COD)は非常に重要な水質汚濁の指標である.本実習でCOD測定法の技術習得を目指す.
実験概要
用意された試料について,アルカリ性過マンガン酸法を用いてCODを測定する.
原理
結果・考察の項目にまとめて示す.
手順
使用する試薬および実験手順はテキストに準ずる.
結果・考察
試料をアルカリ性にして過剰の過マンガン酸カリウムを加えて加熱することによって試料中の多くの被酸化物が酸化される.ブランクのほうは加熱前後で溶液の色に変化はなかったが,サンプルの溶液は加熱前の赤紫色から暗緑色に変化した.これは酸化マンガンの生成によるものだと考えられる.残留した過マンガン酸カリウム量を測るためにヨウ化カリウム溶液を加え,硫酸酸性として未反応の過マンガン酸カリウムと反応させてヨウ素を遊離させた.遊離したヨウ素をデンプン溶液を指示薬として用い,チオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した.それぞれの滴定に要したチオ硫酸ナトリウム溶液の容積を【表2】に示した.ただし沸騰水浴中で60分加熱している途中で,プラッテのブレーカーが落ちてしまったため,加熱が不十分であった可能性がある.加熱した正確な時間がわからなかったため,復旧後約20分間加熱した.実験の操作に大幅な変更がありバラつきが大きかったため,CODの計算には1班のデータを利用した.
ここで,反応原理は以下に示した通りである.またこの反応式から,アルカリ性過マンガン酸カリウム法におけるCODの計算式②を得る.ただし,②式のはそれぞれチオ硫酸ナトリウム水溶液の濃度:0.005mol/L,【表2】Blankの平均値:15.80mL,【表2】サンプルの平均値:23.10mL,チオ硫酸ナトリウム水溶液のファクター:1.004,測定に用いた試料の容積:25mLである.
【表2】滴定に要したチオ硫酸ナトリウム溶液の体積
自班
1班
サンプル1(mL)
8.90
15.70
サンプル2(mL)
13.25
15.90
サンプル平均(mL)
11.08
15.80
Blank1 (mL)
23.15
23.20
Blank2(mL)
22.63
23.00
Blank平均(mL)
22.89
23.10
アルカリ条件で反応させた後,硫酸とヨウ化カリウムを加えることにより,反応は酸性条件で進行することを考慮し,チオ硫酸ナトリウム溶液と酸素の当量関係を求める際には,酸化剤二クロム酸の半反応式は下段のものを用いるべきだと判断した.以上の半反応式から過マンガン酸カリウム1molあたりの酸化力は酸素の酸化力の5/4倍となることが分かる.また酸化還元の反応式の当量関係からCODに関して以下の式が成立する.
CODの基準値は実習Ⅱ-2.1の【表1】と同様に環境基準法に基づいて「生活環境の保全に関する環境基準」として定められている.COD基準値は湖沼,海域について定められており,詳細は以下の【表3】および【表4】に示した.試料の測定値はCODOH=11.73(mg/L)であり,非常に大きい値となった.実習に用いた資料は河川水であるので湖沼の環境基準を参照したが,各種の目的に用いるためには少なくともCODが8.0(mg/L)以下である必要があり,いずれの利用目的にも適応しない.試料を採取した河川の水質は汚濁がひどく,他の環境基準を参照するまでもなく各種...