基礎実習レポート 1-1酸・塩基滴定
Ⅰ.目的と概要
容量分析用標準液0.1mol/L塩酸(第14改正日本薬局方p.192)と0.1mol/L水酸化ナト
リウム液(第14改正日本薬局方p.196)の調整ならびに標定を行うとともに、これらの標
準液を用いて、アスピリン(第14改正日本薬局方p.215)の定量を酸・塩基滴定により行
い、本定量分析法の基本操作ならびにビュレットの正しい使用法を取得する。
Ⅱ.原理
テキストに準ずる。
Ⅲ.実験手順
1)0.1mol/L塩酸の調整と標定
①調製
ポリボトルに約500mLのイオン交換水を入れ、それにドラフト内で量り取られた
塩酸9mLを加えた。次にこのポリボトルの目盛りまで水を入れ全量を約1000mLと
した。栓をしてよく振り混ぜた。
②標定
乾燥した炭酸ナトリウム(標準試薬)(Na2CO3 105.99)約0.15gを精密に量り、三角フラスコの中で水30mLを加えて溶かし、メチルレッド試液3滴を加え、調製した塩酸でビュレットを用いて標定し、ファクターを計算した。これを3回行いそれぞれのファクターの平均値を求めた。なお反応の終点は煮沸して水冷するとき持続する橙色~橙赤色を呈する時とした。結果は【表1】に示す。
2)0.1mol/L水酸化ナトリウム液の調整と標定
①調製
イオン交換水を10分間煮沸し、生損している炭酸ガスを追い出した。ポリボトルに約500mLの室温に冷ましたイオン交換水を入れ、それにドラフト内で量り取られたSӧrensenのアルカリ液を6.2mLを加えた。次にこのポリボトルの目盛りまで水を入れ全量を約1000mLとした。栓をしてよく振り混ぜた。
②標定
アミド硫酸(標準試薬)(H2NSO3H 97.09)約0.15gを精密に量り、三角フラスコの中で上記の炭酸ガスを追い出した水25mLに溶かし、ブロモチモールブルー試液2滴を加え、調製した水酸化ナトリウム液でビュレットを用いて標定し、ファクターを計算した。これを3回行いそれぞれのファクターの平均値を求めた。なお反応の終点は緑色を呈する時とした。結果は【表2】に示す。
3)アスピリンの定量
乾燥したアスピリン約0.3gを精密に量り、イオン交換水でアスピリンをフラスコ内に洗いこんだ後、ビュレットを用いて約50mLの正確に加え、10分間穏やかに煮沸し、冷後、フェノールフタレイン試液を加えた。ただちに過量の水酸化ナトリウムを調製した0.1mol/L塩酸でビュレットを用いて滴定した。これを3回行い、同様の方法で空試験を1回行った。結果は【表3】に示す。
Ⅳ.結果
1)0.1mol/L塩酸の調整と標定
【表1】0.1mol/L塩酸の調製と標定に用いた結果およびファクターの計算結果
ただし、ファクターは以下のように求めた。
0.1mol/L塩酸1mL=5.299mgNa2CO3 であるから、
Na2CO3+2HCl→2NaCl+H2O+CO2 において
Na2CO3がXmg、HClがYmL反応したとすると
表1より、平均値1.400を塩酸のファクターとした。
2) 0.1mol/L水酸化ナトリウム液の調整と標定
【表2】0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の調製と標定に用いた結果およびファクターの計算結果
ただし、ファクターは以下のように求めた。
0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液1mL=9.709 H2NSO3Hであるから、
H2NSO3H +NaOH→H2NSO3Na+H2Oにおいて
H2NSO3HがXmg、NaOHがYmL反応したとすると
表2より、平均値1.197を水酸化ナトリウム水溶液のファクターとした。
3) アスピリンの定量
【表3】アスピリンの定量での秤量値と滴定の結果
この結果をもとに、アスピリンの純度を算出した。
算出法として以下の二つを考えたが、空試験を行う意義を考慮し、また後に考察の項目で述べるように、算出法①はより誤差が大きいと考えられるため算出法②を採択した。それぞれの計算結果は【表4】に示す。
【表4】アスピリンの純度の計算結果
物質量を用いる算出法
以下の記号を用いて示す。
fNaOH:標定した水酸化ナトリウム水溶液のファクター
fHCl:標定した塩酸のファクター
X:本試験で用いたNaOHの量(mL)
Y:本試験で滴下したHClの量(mL)
X´:空試験で用いたNaOHの量(mL)
Y´:空試験で滴下したHClの量(mL)
Z1:秤量したアスピリンの重さ(g)
Z2:反応したアスピリンの重さ(g)
Z2´:反応したアスピリンの物質量(mol)
Z´:アスピリンと反応した水酸化ナトリウム水溶液の量(mL)
アスピリン1molは水酸化ナトリウム2molと反応する。また、水酸化ナトリウム1molは塩酸1molと反応する。このことから、本試験において反応したアスピリンの物質量は以下の式によって求めることができる。
Z2´= )
すなわち、アスピリンの分子量は180であるから、アスピリンの純度は次の計算式で求めることができる。
(0.1×fNaOH×50-0.1×fHCl×Y)×180÷Z1×100(%)
空試験の結果から求める算出法
同じく①で示した記号を用いる。
0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液1mL=9.008mg C9H8O4 であるから
Z2 = fNaOH×Z´×9.008
また、空試験の結果を用いて、
Z´= X-Y
すなわちアスピリンの純度は次の計算式で求めることができる。
fNaOH×(Z´=X-Y )×9.008÷Z1×100(%)
Ⅴ.考察と問題の解答
前述のように塩酸および水酸化ナトリウムの調製・標定ではファクターが大きくなっている。この原因を考察するに、調製の際、ポリボトルの目盛に合わせて試薬を薄めたが、このポリボトルの目盛は必ずしも正確に1000mLに印されているとは限らないということが最初に挙げられる。つまり今回加えた水の量が1000mLよりも少なかったと推定できる。次に、調製のみならず標定の段階でも誤差が出たものと考えられる。というのも、塩酸を調製する時の反応の終点の判断基準である橙色~橙赤色というものは非常に分かりづらく主観による判断となってしまう。また滴定における当量点を過ぎて過量にビュレットから滴下してしまったため、当量点における厳密な滴下量は今回の実験で得られた測定値と異なる可能性がある。
さらに、塩酸の標定において用いたpH指示薬であるメチルレッドは、変色領域をpH=4.4~6.0に持つ。炭酸ナトリウムと塩酸の中和反応における中和点のpHすなわちpKaの理論値は約4.2であり、実際の当量点より少ない量で塩酸の滴下を終了してしまった可能性がある。
以上のことから、特に塩酸の標定によって求めたファクターは誤差が大きいと判断できるため、アスピリンの純度を求める際には誤差の大きい数値の複数使用を回避する目的で、水酸化ナトリウム水溶液のファクターのみを用いる方法を採択した。水酸化ナトリウムの調整・標定においても塩酸同様に誤差が出てしまう可能性は大いに想定できるが、指示薬がBTBでメチルレッドより反応の終点が分かりやすいことなどを考慮して上のような判断をした。
空試験を行ったのは補正のためであるが、求めたファクターからは塩酸の滴下量は水酸化ナトリウムよりも少ないと予想されたのに、実際には多くなっている。これは上述の原因に加え、塩酸の揮発性のために調製・標定の操作の段階で少量の塩酸が揮発してしまったためだと考えられる。
アスピリンの純度が103.4%となった原因としては、前述のように標定で反応の終点が分かりにくかったため、求めた水酸化ナトリウムのファクターが実際の数値と異なっていたことが考えられる。また、ここでもpH指示薬(フェノールフタレイン)の変色領域が8.3~10.4と、理論上予測される当量点におけるpHと近いものの、その領域幅が広いため、判断が主観的になってしまい実際の値と測定値の間にずれが生じたと推測する。
問題①
標定や滴定に用いる試薬の酸および塩基の強さによって、当量点におけるpH、すなわち生成する塩のpKaが異なる。指示薬の化学構造によって、それぞれ変色領域が異なるのでそれぞれの当量点におけるpHとなるべく同じか近い値のものを選ぶと、より正確な酸・塩基滴定を行うことができる。このため、酸・塩基滴定により標定や定量を行う際にはそれぞれ異なるpH指示薬を用いる必要がある。
問題②
炭酸ナトリウム(無水物)には穏やかな潮解性がある。吸湿して炭酸ナトリウム一水和物になる。秤量に時間をかけてしまうと、一部が吸湿してしまい、実際の炭酸ナトリウムの重さより重く秤量されたことになる。つまり塩酸の標定の際にファクターが実際の値よりも大きく出てしまい、算出法①によって純度を求めた場合、純度は実際よりも小さく計算されてしまう。ただし、今回は計算法②を採択しているので、もしも塩酸のファクターに誤差が出たとしても、空試験を行って補正した値で計算するので純度の定量値に影響はない。
まず、(d)はメスシリンダーで水酸化ナトリウム液を量りとっているところが不適当である。滴定などで正確な量...