刑法事例演習教材
28 元風俗嬢の憤激
甲の罪責
構成要件該当性について
甲は、包丁で、Aの右腰部 を、力を込めずに1回軽く突き刺し、同人に刺傷を与えた(第1行為)。この行為は、危険な刃物で、被害者の体幹を刺すものであるが、女性の力で軽く1回だけ刺すものであって、被害者を死亡させる危険性は認められない 。また、甲には、Aを殺害する意思まではなかったと考えられる。
したがって、第1行為は、傷害罪の構成要件に該当する(204条)。
次に、甲は、包丁で、Aの腹部を力まかせに3回突き刺し、内臓に達する刺創を与えた(第2行為 )。この行為は、刃体の長さ約15.5センチメートルの危険な刃物を用いて、被害者の体幹部を深く傷害するものであり、被害者を死亡させる危険性が認められる。そして、甲は、その危険な凶器を用いて、Aの腹部を力まかせに3回も突き刺しており、重傷を負ったAをそのままにして、現場を立ち去っている。このことから、甲は、Aが死亡する結果を認識・認容していたと考えられ、殺意 が認められる。
そして、第2行為によって、Aは、致命傷となりうる重傷を負い死亡したことから、第2行為とAの死亡結...