代理人が本人の利益に反して自己または第三者の利益を図る目的で、代理権を行使した場合の代理行為の効力につき論じなさい。(2011年度第2課題、評価C)
1、代理人の権限濫用
はじめに、代理とは代理人が本人のためにすることを示し(顕名)、第三者と法律行為をし、その効果がすべて本人に帰属するものをいう。その役割は、私的自治の拡張・補充といわれている。
この代理制度は、遠隔地での取引、制限行為能力者の取引や法人の取引などで用いるのに適し、利便性も高いが、いくつかの問題点もある。その一つに、代理人が客観的には代理の権限内の行為をするが、本人の利益ではなく、代理人自身や第三者の利益を図る目的でする行為、すなわち代理人の権限濫用の問題がある。
2、代理人の権限濫用の各論点
代理人の権限濫用について、民法上に直接の規定がないため、他の規定によって解決をしていく必要がある。
(1)民法第93条但書類推適用説
例えば、法人の理事が着服をする目的で、法人名義で金銭を借り入れた場合がある(最判昭38.9.5)。
この点、代理人(法人の理事)は包括的代理権があり(一般社団法人・一般財団法人法第77条1・4項)、金銭の借入行為もその権限内にあると解され、それを無権代理とすることはできない。また、代理人は本人(法人)に法律効果を帰属させ...