A株式会社の代表取締役Bが、株主総会決議、取締役決議を経ないまま特に有利な価額で新株を自己の妻Cに対して発行した。A会社の株主であるDが株主代表訴訟(会社法847条)により、Bに対して公正な発行価額との差額に相当する金額を会社に払い込むよう求めたところBはこれに応じなければならないか。また、Dが取締役の第三者に対する責任(会社法429条)を追求するときはどうか。
法は第三者への有利発行の要件として、株主総会での理由開示(199条3項)および株主総会の特別決議を要求している(201条3項、309条2項5号)。取締役はこの適法な総会の特別決議を経るべき任務があり、これを経ないで新株の有利な価額による発行をした代表取締役B(以下「B」と略す。)は任務懈怠に当たる。また、Bは取締役として会社に対する任務懈怠につき、適法な特別決議をしないまま特に有利な価額でBの妻Cに新株を発行したことから、この任務懈怠に悪意または重過失があったことは明らかである。よって、Bは公正な価額との差額を支払う義務を負う(212条1項1号)。
それでは、特に有利な価額によるが特別決議を経ていない新株の発行の効力をいかに考えるべきか。判例は、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもって新株を発行した場合に、仮に株主総会の特別決議を欠くものであっても新株発行の効力については影響がないものとしている(最判昭46.7.16判時641号97頁)。
しかし、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであること...