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「塩川伸明『民族とネイション』」
序 本稿の目的
最近の日中韓においての歴史認識問題等を論じる際には頻繁に民族、エスニシティ、国民国家、ナショナリズムといった言葉が用いられる。
しかしながら、それらの言葉の意味、定義又は相互関係は非常に複雑である。この点、それらの言葉は異なった事柄でありながら、何らかの共通性及び関連性を持つのではないかとも考えられる。それらの言葉の複雑さの原因として、一方では、人々の日常生活による「大衆の観点」と、他方ではハイ・ポリティクスによる「政治エリートの観点」が交錯するという性格に起因すると考えられる。
よって本稿ではこれらの言葉の多様な事柄の相互関係を解釈・定義することを目指し、それらの言葉を理論及び歴史的な観点から考察する。
第1章 理論からの考察
上記一連の概念は時代や論者により異なる意味を込めて使われた。このように多様な言葉遣いがされている現状がある限り、日本語の語感に沿い一定の幅を持った用語法を探求する必要がある。その用語法を以て、本稿では諸概念の議論をする。
1 エスニシティ
エスニシティの特徴としては、国家・...