日本の現代文学は一九二〇年代前後、とりわけ関東大震災を契機に「第二の欧化の波」とロシア革命後のマルクス主義思想という二つの思想体系により大きく弾みをつけられたが、ともに流入してきた大量消費という、自由主義における記号に埋まっていったような感がある。そこで、日本より一足早くに生活の大衆化を果たしたアメリカの、その文学と社会との関係推移を日本の大衆文学の成立過程と同じ秤に乗せ、それぞれを異とする要素を見出そうと試みる。なお、アメリカ文学と日本の大衆文学を同等のモダニズム文学として取り扱うにあたり、着眼点が戦時下という時代背景に置かれることを先に述べておく。
「大衆文学の成立――アメリカ文学を傍らに――」
日本の現代文学は一九二〇年代前後、とりわけ関東大震災を契機に「第二の欧化の波」
とロシア革命後のマルクス主義思想という二つの思想体系により大きく弾みをつけられた
が、ともに流入してきた大量消費という、自由主義における記号に埋まっていったような
感がある。そこで、日本より一足早くに生活の大衆化を果たしたアメリカの、その文学と
社会との関係推移を日本の大衆文学の成立過程と同じ秤に乗せ、それぞれを異とする要素
を見出そうと試みる。なお、アメリカ文学と日本の大衆文学を同等のモダニズム文学として
取り扱うにあたり、着眼点が戦時下という時代背景に置かれることを先に述べておく。
日本のモダニズム文学を語る時、それは自由主義的な経済活動と切り離すことができな
い。大量消費を目的として世に送り出された通俗小説と講談小説のうち、通俗小説は谷崎
潤一郎の『痴人の愛』によってモダニズムの道を開拓したと見てよい。(1)また、双方の
性格として包含している口当たりのよさ、軽さの根拠もここにある。
明治後期から文壇に籍を置いていた自然主義文学に対抗するように登場した...