『中小都市における公共図書館の運営』~その意義と影響~(八洲学園大学:A評価)

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    資料紹介

    本レポートは、八洲学園大学図書館司書課程(図書及び図書館史)にて、Aランク評価(最高)を得たものです。『中小レポート』の意義を明確にするため、「資料貸出の意義」にまで踏み込んで論じています。参考文献は、計7冊になります。レポートの内容と共に、参考文献も参考にしていただければと思います。少しでもお役にたてればと思い、全体公開させていただきます。尚、有償になりますが、『公共図書館における貸出の意義』で貸出の意義をさらに詳細に論じています。また、中小レポート刊行以後の公共図書館の衰退(一部図書館)については、『大都市公共図書館の盲点と衰退』にて、大阪市立中央図書館を題材に詳細に論じています。問題点や課題を複数列挙していますので、その中に皆様のホームライブラリーが抱える問題点や課題と共有する部分があるかと思います。最後に、中小レポート刊行以降、公共図書館に根付かなかったレファレンスサービスに関しては、『公共図書館におけるレファレンスサービスの理想と現実』を参照ください。その他、『ブックトーク』や『読み聞かせ』など、児童サービス論に関するレポートも別途掲載しております。

    資料の原本内容


    平日の夕方も遅くに近隣の市立図書館を訪れると、貸出カウンターの前には本や CD や DVD を
    持ったスーツ姿のサラリーマンや子供連れの主婦、それに学生風の男性や女性が長い列を作って
    いる。そこには自由な雰囲気があり、人々は受付が終わると満足げな顔をして家路につく。これ
    は現代に生きる我々市民にとって、ごく当たり前の何気ない図書館の光景である。図書館は貸出
    しやレファレンス・サービスといったサービスを市民に提供し、市民の学ぶ権利や知る自由を保
    証している。図書館が提供するサービスに満足した市民は、再び図書館を訪れる。
    この現代の公共図書館の仕組みが完成したのはそう遠い昔のことではない。50 年程まえの図
    書館の主な機能とは、「資料の提供(利用)
    」ではなく「資料の保存」にあったのだ。さらには、
    図書館を訪れることさえ誰もが気軽にできるわけではなかった。
    現代の公共図書館が体現している、理想の図書館像を打ち立てたのが『中小都市における公共
    図書館の運営』
    (1963)であり、そこで述べられた「資料提供という機能は、公共図書館にとっ
    て、本質的、基本的、核心的なものであり、その他の図書館機能のいずれにも優先するものであ
    る。
    (1)」という宣言は、日野市立図書館をはじめとするそれ以後の公共図書館に多大な影響を
    与え、そして公共図書館の意義そのものを変えることに繋がった。つまり、現代において我々市
    民が当然視する「資料の提供」というサービスの実現には、『中小レポート』の存在が必要不可
    欠だったのだ。
    そこで本論では、『中小レポート』の意義やその影響を明確にするため、その理念を確認する
    とともに、その核となる「資料の提供」についても考えてみたい。

    第 1 章:
    『中小レポート』の意義
    『中小レポート』とは、1960 年から 3 年計画で設置されることになった「中小公共図書館運
    営基準委員会」が全国の中小公共図書館を実地調査し、その報告をまとめたものである。そして
    その目的とは、1、中小公共図書館に与えられる条件を一層高めること、2、それらが抱える諸問
    題解決への道筋を示すこと、3、合理的な図書館運営の基準を示すことであった。
    (2)つまり、
    全国における中小公共図書館の抜本的改革が至上命題とされたのだ。
    そして『中小レポート』において何より重要となるのがその理念であり、公共図書館の本質的
    機能を「資料の提供」に据えたことである。序論において、「公共図書館の本質的な機能は、資
    料を求めるあらゆる人々やグループに対し、効果的にかつ無料で資料を提供するとともに、住民
    の資料要求を増大させるのが目的である。
    (3)」と宣言し、また、
    「資料の提供」の対象はあらゆ
    る人々であり、その中でも児童青尐年に対する奉仕は重要課題と位置づけられた。
    この理念においてもう一つ重要なことは、
    「中小公共図書館こそ公共図書館の全てである(4)」
    と大々的に宣言したことである。それまでは府立図書館などの大図書館が主導的立場にあったが、
    それを 180 度改め、大図書館の役割は中小の後方支援であると位置づけたのだ。要するに、市民
    にとって身近にある図書館こそ利用価値があるということだった。

    第 2 章:中小レポートにおける「資料の提供」の意義
    『中小レポート』における「資料の提供」とは、図書やそれ以外の視聴覚資料を、館内利用に
    留まらず、無償で館外利用(貸出し)できることを意味する。また、このことに触れて従来の「館
    内閲覧重視の考え」および「閉架式書架」を否定している。(5)
    筆者は上述の意味において、『中小レポート』は現代の公共図書館の発展に多大な影響を与え
    たと考える。つまり「貸出し」と「開架式」の推進があったからこそ、図書館利用者は拡大し、
    それに伴い、図書館は発展を遂げることができたのだ。利用者の拡大がなければ、利用者からの
    要求もなくなり、それは利用者のニーズを把握できないことを意味し、そうなると図書館の発展
    は望めないのだ。(6)
    例えば、現代の公共図書館では「貸出し」と「開架式」は当然の機能になっているが、この二
    つの機能がなければどういったことが起こりうるだろうか。
    もちろん図書館利用者は激減するは
    ずである。「貸出し」がなければ利用者は図書館で資料を閲覧するしかなく、ある程度の時間的
    余裕のある市民でもなければそれは不可能だからだ。また、開架式でもなければ気軽に図書館を
    訪れて資料を探さそうなどとは思わないだろう。(7)
    (8)

    結論
    『中小レポート』の意義とは、中小公共図書館を抜本的に改革し、その価値向上を図ることに
    あった。また、その理念とは「公共図書館の本質的な機能は、資料を求めるあらゆる人々やグル
    ープに対し、効果的にかつ無料で資料を提供するとともに、住民の資料要求を増大させるのが目
    的である。(9)
    」であり、
    「資料の提供=貸出し・開架式」を核とするものであった。
    そしてその理念は日野市立図書館に受け継がれ、その実践の結果、利用者拡大を実現させるこ
    とになる。後に公刊された『市民の図書館』
    (1970)はそれ以後の公共図書館の手引き書になる
    のだが(10)、しかしながら『中小レポート』の理念である「公共図書館の本質的機能=資料の
    提供=貸出し・開架」こそが、現代の公共図書館を創りあげた源だったのだ。

    後注(文献表あるため簡略化)
    (1)

    中小レポート、21 頁

    (2)

    中小レポート、14 頁参考

    (3)

    中小レポート、21 頁

    (4)

    中小レポート、22 頁

    (5)

    中小レポート、22 頁参考

    (6)

    貸出し、14‐19 頁参考

    (7)

    貸出し、14‐19 頁参考

    (8)

    図書館サービス論、57 頁参考

    (9)

    中小レポート、21 頁

    (10) 図書及び図書館史、112‐116 頁参考

    文献表
    1、小川徹・奥泉和久・小黒浩司著 『公共図書館サービス・運動の歴史 2 戦後の出発から現
    代まで』

    日本図書館協会

    2006 年

    2、小黒浩司著 『図書及び図書館史』

    日本図書館協会 2010 年

    3、高鷲忠美著 『図書館サービス論』 角川学芸出版 2010 年
    4、前川恒雄著 『貸出し』 日本図書館協会

    1982 年

    5、前園主計編著 『新訂図書館サービス論』 東京書籍 2009 年
    6、『市民の図書館』増補版 日本図書館協会 2005 年
    7、『中小都市における公共図書館の運営』 日本図書館協会 1963 年

    総字数
    計 2156 字(後注・文献表は含まず)

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