日本仏教史 法然と明恵――鎌倉仏教における念仏思想について
日本における仏教の歴史は、鎌倉時代に転換点を迎える。末法思想や浄土思想、本覚思想の発展とそれらに対する批判を経て、鎌倉期の仏教は多様な展開を見せた。
鎌倉仏教思想には大きな特徴として、現実肯定的であることと戒律や修行を不要なものとする傾向がある。本覚思想の発展から、万人に本来的に仏性が宿っており、現実の状況はそのまま悟りの現れであって、わざわざ戒律を守り修行を実践する必要はないと考えられたためである。しかし修行と、それによって得られる悟りを重視した旧来の仏教側からは反発を受け、反動として戒律や修行の復権が叫ばれたり、現状に合わせて実践法を改革したりという動きも現れた。そういった流れの中で、鎌倉期には多くの新宗派が現れている。それら新仏教は外部から旧来の仏教を批判する立場を担った。一方で旧仏教側も、教団の内部で様々な改革に踏み切り発展を見せている。このレポートでは、念仏こそ正定業と考え専修念仏を徹底した新仏教の旗手、法然房源空と、その法然の念仏思想を厳しく批判した旧仏教側の明恵上人高弁の生涯を追い、念仏思想の発展とその問題点...