安楽死を賛成すべきか、反対すべきか。それについてのやりとりが多いであるが、ほとんど人間的なプライド、道徳、あるいは死者や親族の気持ちにめぐる論争に過ぎない。しかし、道徳にしろ気持ちにしろ、どちらもある意味では、ただの虚しさだけが残るのみである。手は触れることができないし、目にも見えない。こんな虚しさに基づいた論争の結果の参考価値はどれぐらいあるのか、それに対して、疑問がつのる。もともと、安楽死は医療により引き起こされる問題である。医学も科学の一つであり、科学である以上、もっとも要求されるのは、もちろん具体的、確実なデータ、言わば現実であること。現実で考えたら、私は安楽死制度に賛成せざるをえない。
患者と家族に対して、安楽死を執行すれば、一番現実なのは「肉体的・精神的苦痛からの解放されること」。肉体的苦痛と精神的苦痛に分けて説明する必要があるので、最初は肉体的苦痛から。まず患者の肉体的苦痛として、がん患者の苦痛があげられる。がんには、ガン細胞が直接神経に転移する激痛や、まわりから神経を圧迫することによっておこる激痛などが伴う。現在医療の発達により、がん患者の90%から95%は苦痛から解放...