社会情勢を背景にしてつくられてきたイギリスにおける社会保障制度の歴史的発展をまとめる前に、社会保障とは何か基本的概念を押さえておく。「社会保障」とは社会生活を営む上で起こりうる失業、疾病、障害、労働災害、貧困などのリスクに対して、公的な責任においてそのリスクを回避するようにし、もしそのような社会的な事故が起きた場合にはそこから回復できるようにすることである。
14世紀頃のイギリスでは、囲い込み運動や農奴制の崩壊が原因で貧民が大量発生した。16世紀に入ると、農村の窮乏化と浮浪者の増加が更に深刻になったため救貧政策がとられた。そして1601年宗教的慈善活動から離れ、行政組織による全国的な公的扶助制...