なぜ中国の活字活版印刷は普及しなかったのか
―言語文化と活字の相性による考察―
序論
印刷技術の発明に関しては、15世紀中頃にドイツ人のヨハネス・グーテンベルグが活字活版印刷を開発したことに始まるということが知られている。それ以前のヨーロッパでは手で書く手写本といわれるものがすべての書物の基本であったため、短時間に数百枚もの印刷ができる技術の登場はヨーロッパ中に大きな影響を与えた。グーテンベルグの活字活版印刷による最初の大規模な出版物は「四二行聖書」と呼ばれている。そして「四二行聖書」が出版されてから半世紀の間に、2万種類以上の出版物がドイツだけでなくヨーロッパ各地で出版されたといわれている。その後もこの印刷技術はヨーロッパに広く定着し、新しい文化を作り上げていった。
しかし、グーテンベルグが活字活版印刷を発明するおよそ400年前、11世紀の中国において、すでに活字活版印刷は始まっていたのである。では、なぜ中国で発明された活字活版印刷はヨーロッパで発明されたものほどの影響を与えることができなかったのだろうか。
中国とヨーロッパでの印刷において、最も大きな違いとして考えられ...