1[目的]
電気伝導度の測定から酸、アルカリの中和点を調べる。また中和滴定の結果と比べる。
2[原理]1-1)
電解質溶液に面積 A cm2 の電極
(白金板)
2枚を d cm の距離で平行に向かい合わせたとき、
電極間の溶液の抵抗を R、電導度を K とすると、
K=
1
A
=k
R
d
式(2.1)
の関係がある。ここでkは導電率で、A=1cm2、d=1cm のときの K である。単位は K は S、
kは S/cm で表される。
また電解質1g当量をvml に溶解したときの導電率がkであれば、
k×vをΛで表し、当量電導度と呼ぶ。Λは物質により固有な値をもつが、イオンの相互
作用の結果、図 2.1(a)のように電解質濃度に依存し濃度ゼロ近づくと極限値Λ0 に達する。
これを無限希釈における当量電導度といい、その電解質から生じる陽陰各イオン固有の導
度を l+ , l- とすると、
Λ = l+ + l−
0
Λ = l0+ + l0− = F μk + μA
式(2.1)
図 2.1(a)当量電導度と濃度(b)導電率と濃度の関係
ここで、F は電気量、μはイオンの移動度である。
電導度滴定
滴定反応の結果、難解離性、難溶性化合物が生成する場合には、滴定の進行とともに電導
度はほぼ直線的に変化し、当量点前後では滴定曲線の傾斜が変わるので、その交点から終
点を求めることができる。例えば、塩酸を水酸化ナトリウム溶液で滴定した場合、
当量点まで:H+ + Cl− + NaOH → Na+ + Cl− + H2 O
(電導度)
350 76
426
50
76
126
当量点以後:Na+ + Cl− + NaOH → Na+ + Cl− + Na+ + OH−
(電導度)
50
76
50
76
126
50
199
375
のようになる。すなわち当量点までは 426→126 と減尐していき、当量点以後は 126→375
と再び増加していく。図 2.2 にこの状態をグラフにしたものを示す。
図 2.2 強酸-強塩基の電導度滴定曲線
表 2.1
無限希釈における水溶液中のイオンの当量電導度
l0+ 陰イオン
l0−
溶媒
陽イオン
水
H+
349.8 OH-
198.6
Na+
50.1 F-
55.4
+
-
K
73.5 Cl
NH4+
73.3 I-
1/2Ca
+
1/2Mg+
1/2Ba
+
1/2Cu+
76.4
76.8
3
59.5 NO
71.5
53.1 ClO4-
67.4
2-
80.0
53.6 1/2C2O42-
70.0
63.6 1/2SO4
3[実験]
器具:
電気伝導度計、電気伝導度セル、秤量瓶、100ml メスフラスコ、100ml メスシリンダー、100ml
三角フラスコ、250ml メスフラスコ、50ml ビュレット
試薬:
水酸化ナトリウム、塩酸、酢酸、シュウ酸、フェノールフタレイン
操作
1、0.1M シュウ酸標準溶液、0.2M 水酸化ナトリウム溶液、0.01M 塩酸、0.01M 酢酸溶
液を調整した。2、指示薬にフェノールフタレインを使い、シュウ酸標準溶液と水酸化ナ
トリウム溶液を用いて滴定を行い、水酸化ナトリウムの濃度を求めた。3、この濃度既知
の水酸化ナトリウム溶液で塩酸、酢酸溶液の滴定を行い、これらの濃度を求めた。4、100ml
三角フラスコに 0.01M 塩酸を 50ml 入れ、これに電極を差し込みながら 0.2M 水酸化ナト
リウム溶液を滴下し電気伝導度を測定した。5、酢酸溶液にも同様の操作を行い、水酸化
ナトリウム溶液の滴下量に対して電気伝導度をプロットして、得られた直線の交点から中
和点を決めた。
4[結果]
中和滴定結果
シュウ酸二水和物の秤量値:3.150g
シュウ酸溶液の濃度:9.996×10-2 mol/L
これより水酸化ナトリウム溶液との滴定結果を表 4.1 に示す。滴定の終点は最後の 1 滴で
溶液の色が変化した量とした。
表 4.1 シュウ酸溶液と水酸化ナトリウム溶液の滴定
Vs
シュウ酸
NaOH
NaOH
1回目
2回目
3回目
滴下量(ml)
11.68
11.70
11.76
濃度(mol/L)
0.1712
0.1709
0.1701
水酸化ナトリウム溶液の平均滴下量:11.71mL
水酸化ナトリウム溶液の濃度:0.1707 mol/L
正確な濃度が求まった水酸化ナトリウム溶液を用いて、塩酸と酢酸溶液を滴定した結果を
表 4.2 と表 4.3 に示す。
表 4.2 塩酸と水酸化ナトリウム溶液の滴定
HCl
NaOH
vs
NaOH
1回目
滴下量(ml)
濃度
(×10-3mol/L)
2回目
2.40
2.40
2.40
8.196
8.196
8.196
水酸化ナトリウム溶液の平均滴下量:2.40
塩酸の濃度:8.196×10-3 mol/L
3回目
mL
表 4.3 酢酸溶液と水酸化ナトリウム溶液の滴定
酢酸
NaOH
vs
NaOH
1回目
滴下量(ml)
濃度
(×10-3mol/L)
2回目
3回目
2.47
2.50
2.51
8.435
8.537
8.572
水酸化ナトリウム溶液の平均滴下量:2.49 mL
酢酸溶液の濃度:8.503×10-3 mol/L
電気伝導度測定結果
塩酸と水酸化ナトリウム溶液の電気伝導度測定の結果を表 4.4 と図 4.1 に示す。
表 4.2 より中和点での水酸化ナトリウムの滴下量は 2.4ml ほどであるため、この実験での水
酸化ナトリウムの滴下量を 1.99ml と 2.55ml に分けて図 4.1 の回帰式を求めると、次のよ
うになる。
表 4.4 塩酸と水酸化ナトリ
0.500
ウム溶液の伝導度測定
NaOH(ml)
0.450
NaOH
0.400
伝導度
0.350
(S/cm)
0.00
0.461
0.34
0.407
0.50
0.381
0.70
0.360
1.00
0.325
1.29
0.275
1.99
0.200
2.55
0.162
3.01
0.186
4.10
0.292
4.90
0.365
5.36
0.405
5.82
0.446
電導度(S/cm)
HCl vs
0.300
0.250
0.200
0.150
0.100
0.050
0.000
0.00
2.00
4.00
6.00
NaOHの滴下量(ml)
図 4.1
水酸化ナトリウム溶液滴下量に対する伝導度のプロット
8.00
A1
y = −0.1304x + 0.4525
式(4.1)
A2
y = 0.0891x − 0.0730
式(4.2)
ここで、A1 は水酸化ナトリウムの滴下量 0.00~1.99ml、A2 は 2.55~5.82ml までの回帰直線
の式で、yは電気伝導度、xは水酸化ナトリウムの滴下量である。この2直線の交点より
中和点における滴下量は 2.41 ml
で塩酸の濃度は
8.228×10-3 mo/l のなった。
同様に酢酸と水酸化ナトリウム溶液の電気伝導度測定の結果を表 4.5 と図 4.2 に示す。
表 4.5 酢酸と水酸化ナ
0.450
トリウム溶液の電気伝
0.400
導度測定
vs
NaOH(ml)
0.350
NaOH
伝導度
電導度(S/cm)
酢酸
(s/cm)
0.300
0.250
0.00
0.019
0.47
0.022
0.96
0.041
1.44
0.059
0.100
1.93
0.074
0.050
2.45
0.096
2.88
0.144
3.37
0.191
3.87
0.240
4.37
0.281
4.84
0.327
5.31
0.368
5.80
0.408
0.200
0.150
0.000
0.00
2.00
4.00
6.00
NaOHの滴下量(ml)
図 4.2 水酸化ナトリウム溶液に滴下量に対する電気伝導度のプロット
水酸化ナトリウムの滴下量 0.00~2.45ml までの回帰直線を A3、滴下量 2.88~5.80ml までの
回帰直線を A4 とすると、
A3
y = 0.0328x + 0.0121
式(4.3)
A4
y = 0.0907x − 0.114
式(4.4)
これより、中和点での水酸化ナトリウム溶液の滴下量は 2.19 ml で酢酸溶液の濃度は
7.477×10-3 mol/l となった。
以上より、塩酸-水酸化ナトリウム溶液、酢酸溶液-水酸化ナトリウム溶液の中和滴定
での結果と電気伝導度滴定での結果を比べる。
8.00
表 4.6
塩酸濃度(×10-3mol/l)
水酸化ナトリウム
滴下量(ml)
酢酸濃度(×10-3mol/l)
水酸化ナトリウム
滴下量(ml)
中和滴定と電気伝導度滴定の測定結果比較
中和滴定
電気伝導度滴定
差(%)
8.20
8.34
1.7
2.40
2.41
8.50
7.48
2.49
2.19
0.4
12.1
12.0
強酸...