『平家物語』は平家一門の栄華と滅亡の物語である。治承・寿永の動乱で安徳帝もろとも壇ノ浦に沈む滅亡までの一連の歴史を描くだけでなく、その時代背景から歴史文学性や叙事詩性、説話文学性、唱導文学性、物語文学性などの各要素を兼ね備えた軍記物語の最高峰である。これらを幾つかのキーワードを基に考察し説明していく。
まず、「盛者必衰」である。元々は仏典中の句であるが、「裟羅双樹の花の色、盛者必衰のことはりをあらはす」(平家物語)という表現を用い、続いて「おごれる人も久しからず」(平家物語)「たけき者も遂にほろびぬ」(平家物語)と述べ、さらに異朝と本朝における具体的な人名を掲げている。「おごれる人」「たけき者」はともに盛者の範疇に入るもののようであり、かつ将門・純友・義親・信頼のような者が「盛者必衰」の見本であったと思われる。「たけき者」で且つ「おごれる者」は清盛、「おごれる者」は成親や西光、「たけき者」には義仲や義経、そして「たけき」事なく「おごれる」者のない人物として頼朝が挙げられるとする説もある。頼朝といずれにも属さぬ人物という見方は非常に面白い考えである。
次に「無常」である。これは、作中を一...