序文
空間認知は動物にとって生存にかかわる基本的な行動を支える重要な機能である(岡市2002)。餌のある場所や敵のいそうな場所を覚えておく、巣に戻るためにもっとも効率的で安全な道筋をたどる、といった適切な行動をするためには、空間的位置を認知し記憶しなければならない(岡市2002)。このように我々は自分が今どこにいるのかを把握し、人に道を教えたりできる。そして状況に応じて、別の経路を選択したり、目的地に近い経路を判断したりする。こうした選択や判断が可能なのは、経験によって獲得された空間にまつわる知識が保持されているからである(松井1995)。このような知識のことを認知地図(cognitive map)と言う(松井1995)。これに従って人は行動する。人が認知地図を作るには、視覚を主とし運動感覚などを補助に使うことによって得られた地理情報を利用している(神藤1997)。しかし、それらの情報が一体何であってどのようなものなのかは未だ全ては解明されていない。空間に関する行動や判断には一定の傾向を持った偏りが見られることがあり、認知地図は現実の空間に比べて”歪み”をもっているといえる(松井199...