「平家物語」という作品は、保元の乱・平治の乱勝利後の平家と、敗れた源家の対照、源平の戦いから平家の滅亡を追ううちに、没落しはじめた平安貴族たちと新たに台頭した武士たちの織りなす人間模様を描いた軍記物語である。「祇園精舎の鐘の声…」の有名な書き出しをはじめとして、広く人々に浸透している。
物語の作者については、多くの書物にさまざまな伝えがあげられ、定かではないが、「徒然草」によれば、延暦寺の慈円のもとに扶持されていた信濃前司行長と、東国出身で芸能に堪能な盲人の生仏が作ったとされている。仏教界の中心人物であり、「愚管抄」を書いた慈円と、公家である行長、東国の武士社会との関わりが深い生仏が提携していることからも、他の古典作品とは異なる物語の成り立ちや歴史観の複雑さが伺われる。
「平家物語」の時代背景は平安時代後期で、保元の乱・平治の乱を通じて武士の政治的地位が上昇した時代である。両乱の後の、源平合戦が長期に渡り続き、最終的に治承・寿永の乱を経て源家の鎌倉幕府が勝利し、貴族中心であった平安時代は終結する。今までの貴族の摂関政治が衰え、度重なる内乱による社会的動乱期であったこの時代は、治安の...