日本の現行刑法はドイツ刑法を中心に各国の刑法を参考にしながら1907年に成立した。このこともあり、日本とドイツの刑法には共通点が多い。幅広い刑法学の中で、「正当防衛における防衛の意思」について日本とドイツの判例を比較していこうと思います。
まず、ドイツについてみていきます。正当防衛の成立のためには、防衛意思が必要であるというのは、ドイツの判例・通説であります。これによれば、行為者が客観的には正当防衛行為をおこなっているが、そのことを認識していない場合には、行為は正当防衛として正当化されることはないということになります。学説には、この場合に行為者に既遂の責任を認める見解と、行為者は違法な意思は有してはいたが、少なくとも客観的には法秩序に違反しておらず、保護に値する利益を守る結果を生じさせたものであるから、未遂の責任のみを認めるべきだとする見解があります。行為の合法性を基礎付ける防衛意思として、判例は、一貫して、行為が正当防衛の動機・目的に出たものでなければならないとして、それ以上のものを要求してきています。たとえば、「カップ暴動事件」に関するライヒ裁判所の判決は、「現実のあるいは想像的な政府の攻撃に対して帝国憲法を保護しようとすることを何ら目的とせず、反対にそれを破壊しようとしたものである」として、「国家正当防衛」の主張を排除しています。また、喧嘩闘争の結着をつけ、「勝利を得ようと欲していた」ときには正当防衛の要件が欠ける、ともされています。しかし、判例は、「意思の不可分性」を理由として、防衛する意図のほかに他の感情や目的が併存していても、防衛意思を否定することはできないとしています。山林監視員らに見つかり、発砲を受けた密猟者が、追跡を阻止する意図で発砲し、そのうちの一人に重大な傷害を負わせたという事案において、「被告人に防衛の意思がなく、もっぱら他の意図で被害者に対して発砲した場合には、刑法(旧)53条の本質的なメルクマールがかけていることになる。
日本の現行刑法はドイツ刑法を中心に各国の刑法を参考にしながら1907年に成立した。このこともあり、日本とドイツの刑法には共通点が多い。幅広い刑法学の中で、「正当防衛における防衛の意思」について日本とドイツの判例を比較していこうと思います。
まず、ドイツについてみていきます。正当防衛の成立のためには、防衛意思が必要であるというのは、ドイツの判例・通説であります。これによれば、行為者が客観的には正当防衛行為をおこなっているが、そのことを認識していない場合には、行為は正当防衛として正当化されることはないということになります。学説には、この場合に行為者に既遂の責任を認める見解と、行為者は違法な意思は有してはいたが、少なくとも客観的には法秩序に違反しておらず、保護に値する利益を守る結果を生じさせたものであるから、未遂の責任のみを認めるべきだとする見解があります。行為の合法性を基礎付ける防衛意思として、判例は、一貫して、行為が正当防衛の動機・目的に出たものでなければならないとして、それ以上のものを要求してきています。たとえば、「カップ暴動事件」に関するライヒ裁判所の判決は、「現実のあるいは想像的な...