源泉徴収制度は、現実的に日本の租税制度においてきわめて重要なウェイトを占めるものでありながら、法律的には必ずしも十分に解明されていなかった。現行法は、
源泉徴収制度は、現実的に日本の租税制度においてきわめて重要なウェイトを占めるものでありながら、法律的には必ずしも十分に解明されていなかった。現行法は、源泉徴収制度をもっぱら国家の租税確保の手段として租税徴収の手続的視覚から構成している。このため、本来の納税者である受給者(サラリーマン)は、租税法律関係から捨象されている。
源泉徴収とは、給与・報酬などの支払者が、給与・報酬などを支払う際にそれから所得税などを差し引いて国などに納付する制度である。所得税法は、一定の所得について源泉徴収制度を適用することとしている。源泉徴収の法律関係において登場すべき者は、課税庁、源泉徴収義務者(給与支払者)、及びサラリーマン(受給者)の三者である。現行法の予定する源泉徴収の法律関係の構造を客観的に検討するとき、課税庁と源泉徴収義務者との間の法律関係と、源泉徴収義務者とサラリーマンとの間の法律関係とはそれぞれ異なった法的性格をもつ。加えて、受給者と課税庁との間には、源泉徴収の段階では通例、法律関係が生じないという特殊性がある。源泉徴収義務者自身が少なくとも二つの異なった法的地位を持っているのである。源泉徴収...