序章
“マンガ”は日本の文化ともいえるものになりつつある。戦後以降、手塚治虫の登場から今日まで、様々な漫画が生み出されていった。欧米では、“マンガ”は一部のマニアが支持するアートとしてのものを除けば、全て子ども向きの読み物にしかすぎない。昔は日本でも、“マンガ”は陳腐で幼稚なものだと思われていた。しかし、ここ30年ほどの間に、日本の“マンガ”が、大人の読むに耐えられるものになった。高度な大衆文化として、“マンガ”がこれほど巨大に成長してしまった国は、いまのところ日本だけである(注1)。
“マンガ大国”日本であるから、今日では様々な題材、ジャンルの“マンガ”が存在する。その様々な“マンガ”の中でも、特にスポーツマンガについて考えてみる。恋愛マンガや、アクションマンガなど様々なジャンルがあるなかで、このスポーツマンガこそ、一番時代背景に左右されている“マンガ”なのではないだろうか。そのなかでも私は、《ラブコメ》と呼ばれる、スポーツと恋愛の両方を描いた作品について興味がわいた。スポーツ漫画に重要な、友情・汗・涙というのが省かれ、軽く描かれているのはなぜだろうか。時代背景との関わりが関係あるのだろうか。
本稿では、これまでのスポーツマンガ流行の歴史を振り返り、その流れのなかでの《ラブコメ》の誕生から衰退、また《ラブコメ》作家の代表格である“あだち充”マンガを中心になぜ《ラブコメ》が流行したかを紐解いていこうと思う。
第一章・少年マンガの流れ
あだち充の“ラブコメ”を論じるにあたり、少年マンガのこれまでの歴史を整理しておく必要がある。したがって、本章では、手塚治虫の時代から現在までのおおまかな“マンガの歴史”を整理しておく。
◆ 目 次
序章
第一章・戦後以降のスポーツ少年漫画の流れ
1、手塚治虫
2、劇画の登場と巨人の星
3、水島新司の健全スポーツマンガ
4、青春ラブコメブーム
5、多様化するスポーツマンガ
第二章・あだち充の世界
第一節・あだち充について
1、あだち充略歴
2、連載作品
3、“あだちマンガ”の魅力
4、アニメ化に適した“あだちマンガ”
第二節・代表作「タッチ」
1、あらすじ
2、重層化する三角関係
3、対決回避のための“和也の死”
4、独特の間とコマ運び
第三章・青春ラブコメブームの時代背景
1、“新人類”と“やさしさ”
2、“日常的”であり“非日常的”なラブコメ
3、“バブル”時期の“トレンディ”
4、バブル崩壊後から現在
終章
参考文献
注釈
“青春”・“ラブコメ”考 ―あだち充を中心に―
序章
“マンガ”は日本の文化ともいえるものになりつつある。戦後以降、手塚治虫の登場から今日まで、様々な漫画が生み出されていった。欧米では、“マンガ”は一部のマニアが支持するアートとしてのものを除けば、全て子ども向きの読み物にしかすぎない。昔は日本でも、“マンガ”は陳腐で幼稚なものだと思われていた。...