?.はじめに
われわれが現在当然と思っていることの多くは、中世ルネサンス・イタリアにおいて始まった。それまでの騎士道精神、神を頂点とする絶対的ヒエラルキーの社会が、実力主義・合理主義の世界へと移行していったのである。このような社会制度の変化は、人々の考え方・世界の捕らえ方の変化と同時進行する。19世紀イギリスの芸術批評家・社会思想家のラスキンは次のような発言をしている。
偉大な民族というものは、自らの歴史を三通りの原稿、つまり行いの本、言葉の本、芸術の本によって書き表す。この三冊中のいずれも、他の二冊を読まなくては理解できない。しかし三冊の中で信頼に値するのは、最後に上げた本だけである。
また、古代中国の『史記』に始まる歴史記述は紀伝体の形式をとり、歴代王朝の正史に受け継がれた。つまり易姓革命の思想によって、政権を新たに開いた王朝が正当化され、前代王朝の歴史はその王朝に替わった後の王朝のよって記されるのである。
このように考えると著述家や政治家による記録は、彼らの理想や偏向が混ざっていることを否めない。そして文明の歴史は芸術の歴史だとはいえないまでも、人間の思想の具象化である芸術作品がより当時の社会的真実を伝えているように思われる。よって、われわれの考え方の起源をたどるために文明の一大変革ともいえる芸術・思想上の革新運動ルネサンスを考察してみようと思う。
?.なぜルネサンスはイタリアから始まったか
ルネサンスいわゆる古典文化復興運動は、8世紀にカール大帝が聖職者を中心にラテン語文化を復興し、中世キリスト教文化の基礎を作ったカロリング‐ルネサンス、ギリシア・ローマの文献やアラビアの学問が研究された大翻訳運動に伴う12世紀ルネサンスに続き、14世紀イタリアにおいて始まった。ではなぜ、後に全ヨーロッパへと広まるルネサンスはイタリアに始まったのだろうか。
絶対から相対へ ~ルネサンス期における思想~
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.なぜルネサンスはイタリアから始まったか
Ⅲ.人間世界の肯定
1)ルネサンスの先駆者・ジョット
2)透視画法と人間の尊厳
Ⅳ.絶対から相対へ
Ⅰ.はじめに
われわれが現在当然と思っていることの多くは、中世ルネサンス・イタリアにおいて始まった。それまでの騎士道精神、神を頂点とする絶対的ヒエラルキーの社会が、実力主義・合理主義の世界へと移行していったのである。このような社会制度の変化は、人々の考え方・世界の捕らえ方の変化と同時進行する。19世紀イギリスの芸術批評家・社会思想家のラスキンは次のような発言をしている。
偉大な民族というものは、自らの歴史を三通りの原稿、つまり行いの本、言葉の本、芸術の本によって
書き表す。この三冊中のいずれも、他の二冊を読まなくては理解できない。しかし三冊の中で信頼に値する
のは、最後に上げた本だけである。
また、古代中国の『史記』に...