ヴィクトリア時代の小説について、当時の社会背景なども考慮しながら述べよ。
「ヴィクトリア時代」とは本来ヴィクトリア女王の治世全体を指すが、とりわけイギリスが世界経済の覇者としての地位を誇った、1840年代から1870年代初頭のあいだの社会・文化に限定して用いられることが多い。新時代の幕開けを示すように、ヴィクトリア女王が即位したのは37年のことであった。この多方面で優れた女王の64年間の在位期間、イギリスは安定した秩序を保ちながらかつてない発展を遂げたわけだが、その内部には様々な矛盾を抱えていた。女王即位の年に始まった農作物の飢饉は、40年代に至って深刻な様相を呈した。これが労働階級の政治的発言を強化しようとするチャーティズムとからみ合う。これらの人民憲章運動は37-38年以後10年間断続的に繰り返されたが、直接の成果をあげることなく消滅した。しかし、ヨーロッパ諸国よりも高度に産業革命が発達したイギリスは、漸次中流階級に続いて労働階級の政治的権利を拡張してゆく道を必然的にたどらざるを得なかったのである。ヴィクトリア朝においては、ホイッグ党改め自由党(1841年以来)が、トーリー党改め...