事例問題 被害者の同意
XとAは、XがAに軽度の傷害を与え保険金名下に金員を詐取しようと共謀し、Xが、自ら運転する自動車をAの運転する自動車に追突させて、Aに軽傷を負わせた。右追突によりAの自動車が突然対向車線に押し出されたため、対向車線を走行してきたBの運転する大型トラックが避けきれずこれに衝突し、その結果Aは死亡した。Xの罪責を論ぜよ。
本問において問題となる場面を①XとAが共謀し、Aの同意を持って起こしたXの衝突事故、②事故の反動によって対向車線に押し出されたAとBの衝突事故による、Aの死亡という2点に分ける。
①における問題の所在は、Xの同意を得たAに対する傷害事故について、違法性を阻却できるかという点である。
まず、人が自らの法益を侵害することによって処罰の対象となることはないというのは、刑法における、当然の法理であり、被害者の同意についても法益性の欠如を違法性阻却原理とする違法性阻却自由の典型であるといえる。
ここでいう被害者の同意とは、法益侵害性の認識に基づいて、同意能力のある法益主体により任意にされなければならない。また、同意の効果については、有効な同意...