扇といえばその形もさることながら、何よりも絵柄が特徴的である。煌びやかなものもあれば、また柄のないシンプルなものもある。扇に絵柄が描かれるようになったのは、これも平安時代からだとされている。この絵柄は決して美しいもの、としてのみ見るわけにはいかない。現在に残る古い扇の絵柄の中には、近代風俗を紐解く重要な要素が描かれているのである。室町時代は、扇面に絵を書くことが特に盛んに行われ、人々の四季の行事や、日々の営み、楽しみなどが描かれ、後世に歴史を伝える貴重な産物となっている。その時代の生活や風習があらわれる扇は、単なる飾りや涼をとるものとしでだけではなく、楽しみや生活と共に、日本人と現在まで共に暮している大切な存在である。昔の絵や、正に扇に描かれる絵には、遊びや祭に興じる人々の手に、その姿を見ることが出来る。そして、祭、狩り、神事、豊作願いなどの行いに用いられる姿も度々描かれている。また、現在でも年中の娯楽の中に、扇の姿を見つけることは簡単である。例えば祭や舞踊、めでたい席などに、その姿はよく見られ、夏場では自然と、あるいはお洒落にと、扇を手に取るものも多い。
日本の美術品・扇
私達の生活に馴染んでいる扇は、厳密にいえばそれは多岐にわたるが、大まかに分けると三種類程度だろうか。まず、日常生活で実用するものと、舞踊用、そして、飾りなどに使う実際は扇としては使用しないもの。このどれもが日本人である私達の生活の中で、不自然なく馴染んでいるものである。しかし今では和の象徴ともいえる扇だが、この扇のルーツは勿論中国である。しかし私達が良く知る、俗に言う扇形の折り畳める扇は、実は日本でその形を成した。そして再び中国へと渡って行ったのだった。平安時代の初期、承和(834~848)頃から、現在の扇の元となる最初の扇、『檜扇』があったとされる。これは記録用の木簡の一方...