妖怪にまつわる話を聞き書きする、ということで、私は地元・鹿児島に住む祖父に話を聴くことにした。もちろんすぐに地元に帰って直接話をすることはできなかったので、電話でインタビューしたのだが、意外にも会話が盛り上がり、大変興味深い話を聴くことができた。では早速祖父の話してくれた妖怪話を紹介しよう。御年86歳、今年の年末に米寿を迎える祖父は、戦時中を除いてずっと鹿児島に住んでいる。そんな祖父が幼いころのエピソードだ。
子供時代の祖父は悪名高いガキ大将で、近所の子供たちを引き連れては朝から晩まで走りまわり、いたずらを繰り返していたという。その日も家からしばらく歩いた山の中にある沢で仲間たちといつものように遊んでいた。その沢は近くを流れる小川の源流のような場所で、一部を除けば足が着くほどの深さで、近所の子供たちの格好の遊び場となっていた。夕方になり、みんな次第に帰っていったが、祖父ともう一人の友人は残り、もうしばらく遊ぶことにした。残った二人で水を掛け合い、小さな沢を泳ぎまわり、そろそろ帰ろうと思ったころ、事件は起きた。沢の深くなっている場所を泳いでいると、突然足を引っ張られたような感覚に襲われ、泳ぎの上手な祖父が溺れてしまったのである。それを見た友人はすぐに助けを呼びに行き、戻ってみると祖父はいつの間にか水際に横たわっていた。おぼれた直後に意識をなくし、気付いた時には水際にいたそうだ。
祖父はその出来事を「ガラッパどんの仕業やっど。」と言いきった。「ガラッパ」とは一般に言う河童のことで、鹿児島ではそう呼ばれている。本人の考えでは、沢に棲んでいたガラッパがいたずらで祖父の足を引っ張ったが、本当におぼれてしまったので、焦ったガラッパは仕方なく祖父を水際まで運んだ、ということだそうな。
『現代社会における河童の生き方』
― 鹿児島県の場合 ―
妖怪にまつわる話を聞き書きする、ということで、私は地元・鹿児島に住む祖父に話を聴くことにした。もちろんすぐに地元に帰って直接話をすることはできなかったので、電話でインタビューしたのだが、意外にも会話が盛り上がり、大変興味深い話を聴くことができた。では早速祖父の話してくれた妖怪話を紹介しよう。御年86歳、今年の年末に米寿を迎える祖父は、戦時中を除いてずっと鹿児島に住んでいる。そんな祖父が幼いころのエピソードだ。
子供時代の祖父は悪名高いガキ大将で、近所の子供たちを引き連れては朝から晩まで走りまわり、いたずらを繰り返していたという。その日も家からしばらく歩いた山の中にある沢で仲間たちといつものように遊んでいた。その沢は近くを流れる小川の源流のような場所で、一部を除けば足が着くほどの深さで、近所の子供たちの格好の遊び場となっていた。夕方になり、みんな次第に帰っていったが、祖父ともう一人の友人は残り、もうしばらく遊ぶことにした。残った二人で水を掛け合い、小さな沢を泳ぎまわり、そろそろ帰ろうと思ったころ、事件は起きた。沢の深くなってい...